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第10話 星影の聖女

悪魔との激戦を制し、村へと戻った一行。

気絶していた教団員はロープで縛られ、地面を引きずられながら付いてくる。あとで村長に突き出す予定だ。


相変わらず村は静けさに包まれているが、どこか空気が軽くなったようにも感じられた。


村長の家を訪ね、今回の一件を説明する。


「そんな事が……。

すぐにでも村総出でお礼をしたいところですが、

体がまだ本調子でなくて……」


「まだ呪いの気配が残ってますね。

今、浄化します」


ソフィアはそっと手を翳し、村長の体に回復魔法を流し込む。


「ああ……暖かな光じゃ……」


しばらくすると、村長の顔色はみるみる良くなった。


「おお、結構早かったな?」


「身体の怪我じゃなくて残った呪いの浄化だけなので

私でも早く治せたみたいです。

では、次の人を治しに行きましょう」


「ソフィア、あんたも疲れてんのに大丈夫なの?」


「私なら平気です。

苦しんでいる村の人達を見てる方が辛いので……」


「聖女様……まるで聖女様じゃ……」


「や、やめてください!

そんな大したことじゃないですし!」


ソフィアは褒められていることに対して

どうしていいのか分からない様子で

逃げるように家を飛び出した。


「あ、おいソフィア!?

……行っちまった」


ルアは苦笑しながら仲間に向き直る。


「みんなは宿に行って先に休んどいてくれ。

俺はソフィアを手伝ってくる」


「ルアは大丈夫なのかよ?」


「多分、今回一番ダメージ受けてないからな」


そう言ってルアはソフィアの後を追った。


「…眠い」


仲間たちは宿に向かい、ベッドに倒れ込むように眠った。


――ソフィアは、村の家から家へと治療を続けていた。


一人ひとりに十数分。

魔力も体力も消耗するはずなのに、彼女は疲れた顔をまったく見せない。

ルアは少し距離を置きながら、その背中を黙って見守っていた。


気がつけば空はすっかり夕闇に沈み、村に夜の気配が満ち始めていた。


「ぶっ通しだけど大丈夫か? 

一回休憩した方がよくないか?」


「いえ、私なら本当に平気です。

逆に今やめたら気が抜けちゃうかもしれません」


治療に向かうソフィアの横顔を見ながら、ルアはふと口を開く。


「なんでそんなに優しくできるんだ?」


「え?」


不意を突かれたように、ソフィアが目を瞬かせた。


「優しいだなんて……そんな。

私にはこれぐらいしか出来ないので……」


「これぐらいって、すごいことだぞ?

もう何人治療してる?」


「でも、ちゃんとしたクレリックならもっと早く治せます。

やっぱり、私なんか……」


「そういうことじゃない。

普通、そんなに他人のために頑張れないって話だよ。

やっぱすごいよ、ソフィアは」


ソフィアは言葉を失い、少し俯いた。


「……ごめんなさい。

やっぱり褒められるのって慣れてなくて……」


しばらくして、彼女はぽつりと話し始める。


「身寄りがなかった私は、教会で育てられたんです。

小さい頃からずっと神様の教えを聞いて育ってきました」


「でも、私には回復魔法をはじめとする

聖術の才能がありませんでした」


ルアは黙ったまま、ただ耳を傾ける。


「それでも一人では生きていけないし、

教会で暮らすしかありませんでした。

だから、最初はクレリックになることも嫌だったんです」


話の途中、治療を終えた村人が笑顔で礼を言い、

ソフィアは軽く会釈をする。


そしてまた次の家に向かう。


「でも、大司教のサラフィナ様が言ってくれたんです。

“大事なのは力ではなく、誰かを想う心だ”って」


ソフィアは首元のペンダントを握る。

金色の球体に十字架が刻まれた、小さな首飾り。


「サラフィナ様は優しくて、暖かくて……。

才能の無い私を褒めてくれたのも、あの人だけでした」


「誰かの役に立ちなさい、優しさを分けてあげなさい――

それがあの人の教えです」


「聖術の才能は無くても

私にも出来るんじゃないかって……。

こんな人になりたいなって……。

だからクレリックになるのをやめませんでした」


「今は好きでやれてる?」


ソフィアはまっすぐな笑顔で頷いた。


「はい、好きです」


「そっか。

……ところで、なんで冒険者になったんだ?」


途端、ソフィアは少しだけ俯いた。


「……教会の派閥争いがありました。

サラフィナ様もその時に亡くなっています」


声は震えていないのに、どこか痛みを抱えた響きだった。


「私は派閥とかよく分からなかったんですが、

私はサラフィナ様を尊敬していました。

サラフィナ様をよく思わない人達にとって、

私は邪魔な存在だったんだと思います」


「ごめん、嫌なこと聞いちゃったな」


「いえ、大丈夫ですよ。

教会を追い出されてしまった私は

他に誰かの役に立てる場所があればと思って

冒険者を選びました。

結局そこも追い出されちゃったんですけどね」


苦笑まじりのその表情に、ルアは肩をすくめて言った。


「こんな有能なクレリックを追放するなんて、

見る目ないパーティだな?」


「本当ですね」


二人は思わず笑い合う。


「ソフィアは、誰がなんと言おうとウチの有能なヒーラーだ。

そこは自信持ってくれよな」


「はい!」


夜の闇に溶けるような、清らかでまっすぐな笑顔だった。


――そうして村人全員の治療を終えた頃には、

すっかり深夜になっていた。


村の家々の明かりは消え、空には満ちるような星々の煌めき。

ふと見上げたソフィアの頬を、優しい月明かりが照らしていた。

reunionを読んでいただきありがとうございます。

楽しんでいただけたなら、続きも読んでいただけると嬉しいです。

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