第1話 零れ落ちた光
魔王討伐から四十年。
再び、魔王が復活した。
この世界では、魔王の復活は決して珍しいことではない。
魔王を討伐した者は勇者として讃えられ、栄光を手にする。
そのため、勇者を目指す冒険者が後をたたない。
大陸中央に位置する王都グランベイル。
世界の中心にして、物流も文化もすべてが集まる大都市。
腕に自信のある者たちもまたここに集い、パーティを組み、魔王討伐を目指す。
始まりの地とも呼べる場所である。
「行ってくるよ、バルト」
青年ルアは荷物を肩にかけ部屋を出ようとする。
腰には安物の剣を携えている。
「本当に行くのか?
何度も言ってるけど、
平凡なお前にはきつくないか?」
ルアを心配するのは、王都騎士団部隊長のバルト。
意外と地位のある存在、そして幼いルアを拾い育てた恩人でもある。
「城の兵士なんかやってたら、余計に平凡だろ?」
「俺が話をつけてやったら、そこそこ出世できるかもよ?」
「なんだバルト、寂しいのか?」
「まあ、居候がいなくなってのんびりはできるわな」
ルアは少し不貞腐れる。
「はいはい、今までお世話になりました」
「おう、気をつけてな。
困ったらいつでも戻ってこい」
「ありがとう。行ってくる」
ルアが出て行って後、バルトは物思いにふけるようにため息を吐く。
「…ま、止めても無駄だわな。
あの時の想い、そう簡単に変わるわけねぇよな」
こうしてまた一人、冒険者が生まれた。
名前はルア。冒険者になりたいとは言うが、
平凡な彼に魔王討伐など到底無理だと、
彼自身も理解していた。
それでも彼は歩き出した。
バルトが口にした “あの時の想い” 。
それがどこかで彼を後押ししているかのように。
ルアは街を見渡す。
王都の街並みは活気に溢れている。
「さて、まずはどうするか…」
行き交う人々の中には冒険者たちのパーティもちらほら。
「手っ取り早いのは、
どこかのパーティに入れてもらうことか……。
だったら、ギルドだな」
ギルドとは、王国からの依頼や民間の依頼が集まる場所。
冒険者たちは報酬を得るためここに通う。
そして仲間の募集を行える場所でもある。
「お、この募集なんかいいんじゃないか?」
前衛職募集──ルアの目が輝く。
「そのパーティに参加希望ですね?
では、あちらが面接の場となっています」
受付の冒険者に促され、ルアは別室に案内された。
ドアを開けると、長方形のテーブルを挟み座る三人の人物が視界に入る。
「どうも…ルアって言います。
前衛職募集って張り紙を見て来たんだけど…」
真ん中に座る赤髪の青年が答える。
身軽そうな鎧を身にまとい、傍には使い込まれた剣。
おそらく、剣士だろう。
「俺はこのパーティのリーダー、アレスだ。
さっそくだが、君の特技を教えてほしい」
ルアは答えに窮する。
「特技……って言われても…
戦士系っていうか、剣で戦う感じ?」
アレスの眉間に皺がよる。
「メリア、どう思う?」
「話にならないわね。
不合格でいいでしょ?」
アレスの右に座るメリアと呼ばれた女が呆れたように言う。
白いローブをまとい聖職者の様に見えるが、
清楚な見た目とは違い、言葉にはトゲがある。
「マルストは彼をどう思う?」
アレスは左側の男に尋ねる。
マルストの風貌は道化師のような仮面で顔を隠している。
見た目からは彼が何者かは想像もつかない。
しかし、ふざけたような仮面とは裏腹に、
口調は真面目で丁寧だ。
「ルアさん、このパーティへの志望動機は何ですか?」
「えっと……冒険者を始めるなら、
パーティに参加した方が手っ取り早いかなって思って…。
前衛職募集って書いてあったし……」
アレスが判断を下す。
「残念だが、不合格だ」
「え、不合格!?
今の話だけで!?」
「今の話で十分と判断した。
剣を振るだけなら誰でもできる。
俺たちが求めているのは前衛職、
初心者の君にはつとまらない役割だ」
「いやいや、きっと役に立つって!
今あったばっかりだし、分からないだろ?」
リーダー格の男はため息をつき、立ち上がる。
「じゃあ試してみるか?」
外へ出ると、彼らはルアに試練を与えた。
「特別に試験をしようと思う。かかってこい」
「そういうことなら話が早い!」
ルアは剣を抜き突撃する。
しかし、その剣はかすりもしない。
アレスはルアの動作に一瞬だが驚きの表情をみせた。
(間違いない……この動き……)
アレスは足を引っ掛け、ルアを転ばせ剣を突きつける。
(素人だ……)
「…くそ!
も、もう一回!」
「時間の無駄だ。君は剣も素人だ。
そんなやつはパーティに求めていない」
そう言い残し、リーダー格の男は去った。
「私達、実は意外と名のあるパーティなの。
はっきり言って、あなたじゃ足手纏いよ」
メリアはキツイ言葉を残してアレスの後を追う。
ルアは言い返せなかった。
マルストが静かに語りかける。
「己の実力不足、悔しいですか?」
ルアはマルトスの仮面を見つめる。
「…あんたみたいな人に言われると余計に悔しい」
「この仮面ですか?
確かにふざけた見た目であることは認めましょう。
しかし、人は見かけによらない。
こんな私でも必要とされている"役割"があります。
だからパーティにいます。いずれ君にも分かるでしょう」
マルストはそう言い残し立ち去った。
「……くそ!」
その後、ルアは別のパーティ入団試験をいくつか受けた。
「おりゃー!」
「不合格だ」
「とりゃー!」
「不採用ね」
「ぬおぉー!」
「帰れ!」
しかし、ルアが採用されることはなかった。
夕暮れの酒場。
一日の終わりを労うざわめきに包まれる。
「思ってたより、上手くいかないな…」
考えが甘かったとうなだれる。
そんな中、とある客の同士の話が耳に入った。
「聞いたかよ、
この前、あのパーティに追放されたやつ、
実はめちゃくちゃ強かったらしいぜ?」
「俺もそんな話聞いたことあるぜ。
パーティから追放されたやつがすごい能力者だったって」
「本当、見る目ねぇよなぁ。
追放したやつらが泣いてすがったけど、
『もう遅い』って感じだったらしいぜ?
「ははは、全くだ!
追放された奴からしたら『ざまぁ』だろうな」
その話を聞いて、ルアの頭にある考えが浮かぶ。
「追放……実は強い……能力者……
イケるかもしれない!」
閃きが走った。
この思いつきが、果たして吉と出るか凶と出るか──。
この決断が彼の運命を大きく左右することは、まだ知らない。
reunionを読んでいただきありがとうございます。
楽しんでいただけたなら、続きも読んでいただけると嬉しいです。




