振られても諦めません!それが恋です!
修治の勢いに、美咲は深いため息をついた。
「ねぇ、修治。私が双葉教授を好きなの、知ってるよね?」
問いかけると、修治はいつもの人懐っこい笑みを浮かべた。
「うん、知ってる」
「だったら、なんで教授とのデートの邪魔をするの!
ノートなんて明日でも良かったじゃない!
教授とのデートは今日しかないかもしれないのに!」
怒鳴った瞬間、美咲はハッとした。
……恭介の姿が、ない。
「え? 教授? 修治、双葉教授どこ!?」
キョロキョロと辺りを見回す美咲に、修治は肩をすくめて首を傾げる。
「もう! また逃げられちゃったじゃない!」
怒った美咲は修治の胸倉を掴んだ。
「全部あんたのせいよ! どうしてくれんのよ!」
「美咲、怒るなって〜」
ヘラヘラと笑う修治に、美咲はそのまま力なく切り株に座り込む。
「もう……私には時間がないのよ」
小さな声で呟いた。
「卒業したら、双葉教授に会えなくなっちゃう。
そうなったら、完全に失恋しちゃうじゃない……」
今にも泣きそうな声に、修治の笑顔が消える。
彼はそっと美咲の頭を撫でた。
「大丈夫。もう振られてるから」
「……え?」
「教授、興味ないって言ってたよ」
美咲の目が大きく見開かれ、ピクリと反応する。
ギロッと修治を睨みつけた。
「そんなこと……なんであんたが知ってるのよ!」
「え? 俺、美咲が好きだから教授に聞いたんだよ。
“教授が美咲を好きなら、俺、美咲を諦めます!”
って」
その瞬間、美咲はもう一度修治の胸倉を掴む。
「なんで余計なこと言うのよ!」
「でもさ……教授、こう言ったんだ。
“俺は人に興味が持てない。だから相手が誰であろう
と、好きになることはない”って」
修治の言葉に、美咲の手が力を失い、そっと離れた。
「……そう。美咲だけに興味がないわけじゃないのね」
少しの沈黙のあと、美咲は顔を上げた。
「だったら、まだチャンスはあるかもしれない!」
驚く修治をよそに、美咲は拳を握りしめて続けた。
「美咲に魅力がなくて好きになれないなら諦めるけど、“誰にも興味がない”なら、可能性はまだゼロじゃない!」
まるで自分に言い聞かせるように呟くその姿に、修治は小さく息を吐いた。
(……ほんと、強いよな)
彼もまた、美咲のその明るさと無邪気さに、何度も救われてきた。
だからこそ、恋してしまった。
たとえ、それが報われないと分かっていても。
──いつになったら、この三角関係に決着がつくのだろう。
修治もまた、届かぬ思いに苦しむ一人だった。
ようやく後書きを書ける余裕が出来ました。
『風の唄 森の声』をお読み下さり、ありがとうございます。
この物語は、悪役令嬢ものとは少し違って、
ドタバタしながらも切ない──そんな“大人の純愛”の物語です。
楽しんで頂けたなら幸いです。
次回更新は 明日の朝8時。
さて、美咲は逃げた教授を無事に捕まえられるのか?
おたのしみに




