光の中の未来
ラウンジにて──
「なぁ、美咲」
ホテルのラウンジでケーキを頬張っていた風太が、美咲に声を掛けた。
「なぁに?」
「お前、なんで修治なんかにしたんだ?
恭介がダメだったから妥協したのか?」
風太の率直すぎる言葉に、美咲は苦笑いを浮かべる。
「ナイショ。
……でもね、きっと大人になれば分かるわ」
そう言いながら、美咲はショーケースの前で、
未来──元・座敷童子で、今は“みく”という名の少女──と手を繋ぎ、
楽しそうにケーキを選ぶ修治を見つめた。
辛い時も、悲しい時も、苦しい時も。
いつだって修治が傍にいてくれた。
だからこそ、美咲は恭介への失恋を乗り越えられたのだ。
「ふぅ〜ん」
風太は不満そうに呟き、
「じゃあ修治のことが嫌になったら、オイラが美咲をもらってやる。
オイラ、美咲が大好きだ!」
と笑った。
(教授似の顔立ちでそんなこと言うなんて……将来が心配ね)
美咲が心の中で苦笑していると、
「美咲、風太ちゃん、なに話してるの?」
と、修治が未来と手を繋いで戻ってきた。
「ん? オイラが大人になったら、美咲をお嫁さんにしてやるって話してた」
「風太ちゃ〜ん、美咲は俺のお嫁さんになるんだよ!」
「修治、お前に美咲はもったいない!」
「えぇ!? 風太ちゃん、ひどい!」
泣き真似をする修治を、未来が頭を撫でて慰める。
「風太が美咲と結婚するなら、私は修治と結婚する」
と未来が呟いた。
「未来ちゃん、優しいなぁ」
修治が頬ずりすると、風太が頬を膨らませて叫んだ。
「お前、ずっとオイラと一緒にいるって言っただろう!」
「風太は美咲がいいんでしょ? だったら私は修治がいい!」
言い合う二人を見て、美咲と修治は顔を見合わせ、苦笑した。
今どきの子供は、本当にませている。
でも──こうしてまた出会えたことが、ただ嬉しかった。
きっと風太と未来は、これから人間社会の荒波にもまれていくだろう。
それでも、この二人なら乗り越えられる。
そう信じて、美咲は優しく見つめていた。
人は過ちを繰り返す。
けれど、やり直せるのもまた人間だ。
この二人の歩む未来が、光り輝くものでありますように。
──美咲と修治は、そう願った。
「風太、未来!」
空の声に、二人が笑顔で駆け寄る。
幸せそうに微笑む空と、それを見守る恭介。
美咲と修治は顔を見合わせ、そっと頷いた。
「さぁ、部屋に戻りましょう」
「そうそう、積もる話もありますからね」
自然に繋がれた四人の手。
まるで、ずっと昔からそうしていたかのように。
美咲はその光景を見つめ、静かに涙をこぼした。
(……私も、やっと前に歩き出せる)
そう心の中で呟いた瞬間、
修治の手が、美咲の手を包み込んだ。
「次は、俺たちの番だな」
すべてを分かっていて、それでも受け止めてくれる修治に、
美咲は微笑み返した。
「修治……私も、女の子と男の子が欲しいな」
呟いた美咲に、修治は驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑った。
その瞬間、晴天なのに、突然ざぁっと雨が降り出した。
まるで──大龍神が見守ってくれているかのように。
「美咲、修治! エレベーターが来たぞ!」
風太の声が響く。
美咲は修治の手を握りしめ、心の中で祈った。
当たり前の幸せこそが、いちばんの幸せ。
六人を乗せたエレベーターの扉が静かに閉まり、
ゆっくりと上昇していく。
それはきっと、幸せへと続く道のように──。
【完】
誤って公開してしまいましたが──こちらで完結となります。
恭介、美咲、修治、風太、座敷童子、そして空。
彼らを最後まで見守ってくださった皆さま、
本当にありがとうございました。
皆さまのおかげで、この物語はここまでたどり着くことができました。
心からの感謝を込めて。 古紫汐桜




