表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/50

龍神の里に雪が降る

外へ飛び出すと、

縁側に空が静かに座っていた。


「……こんな所にいたのか」


胸を撫で下ろしながら隣に腰を下ろす。

けれど、空はもう今にも消えそうな笑顔を浮かべていた。


その手に触れようと指先を伸ばす。

しかし、空の手は──すでに薄く、透けていた。


「ど……うして?」


震える声で問うと、

空は穏やかに微笑んで答えた。


「時間が……来たみたいです」


「皆さまのお見送りは出来ると思ったのに……」

少しだけ寂しそうに笑う。


恭介はたまらず、彼女を強く抱きしめた。


「……ごめん」


その言葉に、空は小さく首を振る。


「それは、“思い出してごめん”ですか?」


問いかけに、恭介は答えられなかった。


「嬉しかったですよ。

 姿を変えても、恭介さんはちゃんと私を見つけてくれたじゃないですか」


「でも……俺はいつも、きみを置いていってしまった」


そう言って泣き出す恭介を、

空はやさしく見つめた。


「恭介さん、急に泣き虫になりましたね」


手を伸ばして頬に触れようとする。

だが、その手はもう透き通っていて、触れることさえ出来ない。


「泣かないで……。

 私こそ、あなたを泣かせてばかりで……ごめんなさい」


涙をこらえながら、空は微笑んだ。


「最後に──幸せな時間を、ありがとう」


「もう一度……」

「え?」

「もう一度……お祭りに、一緒に行きたかったな」


空がそう呟いた瞬間、

その身体が淡い光に包まれた。


「やめろ……!」


恭介は必死に抱きしめる。

けれど、その腕の中から、彼女の温もりは消えていく。


「行くな! タツ!」


叫びが夜明けの空へと響く。


その時──


「教授! 雪ですよ、雪が降ってます!」


玄関から修治の声が響いた。


見上げると、空から白い雪が静かに舞い落ちてくる。

光を受けて、儚く、優しく。


「これって……まさか……」

駆け出してきた美咲が呟いた。


恭介が手を伸ばすと、

ひとひら、またひとひら──

雪は掌に落ち、すぐに消えていった。


その傍らで、座敷童子が雪を必死にかき集め、泣いている。

風太がその手を握り、首を横に振った。


「空ぁあああああ!」


座敷童子の悲痛な叫びが、夜明けの里に響いた。


「初めて聞いた……座敷童子ちゃんの声が、

 こんなに悲しいなんて……嫌だよ……」


美咲はその場に座り込み、泣き崩れた。


少し離れた場所で、修治だけが無邪気に空を仰いでいた。


「教授! この雪、積もりますかね!」


その声に、恭介は黙って空を見上げた。


「……さぁな」


かすれた声でそう呟く。




龍神の里に雪が降る。

それは、罪を犯した龍神が

天へ還る時にだけ、降るという。


誰も知らなかった──

それが“別れの雪”であることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ