運命を知った日
「教授の過去を知りたいんです!」
美咲の叫びに、振り上げられた恭介の拳がギリギリで止まった。
一瞬、空気が凍る。
「……なんだって?」
恭介は低く呟くと、修治の胸ぐらを掴んでいた手を離し、ゆっくりと俯いた。
「教授と空さん、何かあるんでしょう?
私たち、明日には人間界に帰るわけだし……。
こんなわだかまりが残ったまま帰るの、嫌なんです!」
美咲の言葉に、恭介は小さく息を吐いた。
そして、ふと風太に視線を向ける。
「……ここでは話せることじゃ──」
「大丈夫だぞ。恭介、オイラの父ちゃんなんだろう?」
風太が笑顔でそう言った。
恭介の表情が一瞬、崩れる。
「風太……お前、知ってたのか?」
「空から聞いた。
恭介がオイラと一緒に暮らしたいって言ってくれてるのも」
そう言って、風太は柔らかく微笑んだ。
恭介はその前にしゃがみこみ、風太の肩に両手を置く。
「……それで、風太はどうしたい?」
風太は少し考え、そしてまっすぐに言った。
「オイラは此処に残る。
空と座敷童子を置いて、オイラだけ人間界に行くなんてできねぇ」
「風太……」
恭介が悲しげに名を呼ぶ。
風太は小さく息を吸い、真っ直ぐに恭介を見つめた。
「どっちにしても、オイラが此処で暮らせるのは、あと二年なんだ。
風の子は風の里で生きなくちゃならねぇ。
本当なら、もうとっくに戻ってなきゃいけなかったんだ。
でも、空と婆ちゃん……大龍神様が頼んでくれて、七つになるまでは此処で育ててもらえることになったんだ」
そう言って、風太は笑った。
その笑顔が痛いほど眩しく見える。
「だから、恭介と人間界に行っても、オイラはすぐに風の里に連れ戻されちまう」
その言葉に、恭介は力なく項垂れた。
風太はそんな恭介の手をぎゅっと握る。
「でも、嬉しかったぞ。
恭介がオイラの父ちゃんだってことも──
一緒に暮らしたいって言ってくれたのも、全部」
恭介はその小さな体を抱きしめた。
「……そうか。結局、風太も奪われてしまうんだな」
静かに呟く声が、少し震えていた。
その時、美咲が一歩前に出た。
「教授……教えて下さい。
教授はこの場所で、何をしていたんですか?
どうして風太君たちと引き離されてしまったんですか?」
恭介はゆっくりと顔を上げ、美咲を見つめた。
しばしの沈黙のあと──低い声で言った。
「……楽しい話ではないぞ」
そう前置きしてから、恭介はゆっくりと語り始めた。




