知られざる絆
「え? 明後日、修治達は元の世界に帰っちまうのか?」
残念そうに呟いた風太に、修治が何かを考え込んでいる。
「修治? どうした? お前の空っぽの頭で考えても、答えなんて出ないぞ」
風太がそう言うと、修治はガックリと肩を落とした。
「風太ちゃん。俺、これでも大学生なんだけど……」
「大学生? 大学生ってなんだ? 美味いのか?」
きょとんとした風太に、修治は苦笑する。
「そうだよな。俺たちの世界で大切なことが、他の世界で大切とは限らない」
そう言いながら、修治はそっと風太の頭を撫でた。
そしてふと、風太の腕に目をやる。
「あれ? 風太ちゃん、どこかでぶつけたのか?」
風太の右腕には、青い痣ができていた。
「あぁ、これか? オイラ、ちょっとぶつけると青くなっちまうんだ。痛くねぇし、ほっときゃすぐ治るぞ」
笑う風太に、修治は記憶をたぐる。
──いつだったか、大学でのこと。
美咲が恭介の腕に抱きつこうとして、勢いで腕を払われた。
恭介の腕が壁に軽くぶつかり、みるみるうちに青痣になった。
「すみません! 私のせいで!」
泣きそうな美咲に、恭介は苦笑して言った。
「あぁ……気にするな。俺は皮膚が薄いらしくてな。
軽くぶつけただけでこうなる。すぐ消えるさ」
その光景が鮮やかに蘇る。
「風太ちゃん! ちょっと顔をよく見せて!」
修治が風太の頬を両手で掴んでガン見する。
(目元……鼻筋……教授に似てないか?)
修治の頭の中で線が繋がる。
「修治! 顔近い! 気持ち悪い!」
風太に叫ばれ、修治はハッとして手を離す。
──あるとき、風太と恭介が並んで昼寝していた。
縁側で、同じ姿勢で、同じ寝顔で。
空がそっとタオルケットをかけているのを見て
「コピーみたいですね」
って、美咲が笑っていた。
でも今なら分かる。
(もしかして……教授と風太って……)
それに気づいた瞬間、修治の背筋が冷たくなった。
美咲が知ったらどうなる?
また悲しそうに笑うのだろうか。
それとも、2人のために空元気を装うのだろうか。
修治は口元を押さえ、ゆっくりと座り込んだ。
「……どうして、美咲ばっかり」
ぽつりとこぼれた言葉が、木の根の中に落ちていく。
普通の同年代の子なら、もっと気軽に恋を楽しんでいる。
でも美咲は、出会った頃からずっと恭介しか見ていなかった。
「双葉教授!」
あの時の弾けるような笑顔。
その視線は、決して他へ向かうことがなかった。
それでも目が離せなくて、友達のまま傍にいるしかない自分が情けない。
けれど、あんまりだ。
せめて、自分たちが元の世界へ戻るまでは──
美咲にそのことが知られないようにしよう。
修治はそう心に決めた。




