届かない想いの先で……
(こんなふうに無防備にされたら、
余計に好きになっちゃうじゃない……!)
美咲は恭介からそっと視線を逸らした。
「藤野君? どこか具合でも悪いのか?」
優しい声が降ってくる。
──いつもそう。
冷たくされたかと思えば、こうやって優しくする。
だから余計に、諦められなくなる。
美咲は息を吸い込み、笑顔を作った。
「何がですか? 元気ですよ。
あ!教授、もしかして……
『藤野の憂い顔も可愛いな』とか思っちゃいました? だとしたらラッキー♪」
冗談めかして笑いながら、恭介の腕に手を伸ばす。
けれど、その手は途中で止まった。
右手には風太の小さな手。
左手には、座敷童子がしっかりと握っていた。
(……遠いな)
こんなに近くにいるのに、
大学にいた頃よりもずっと、恭介が遠くに感じる。
そんな美咲の耳に、にぎやかな声が飛び込んできた。
「酷いよ、風太ちゃん!」
振り向くと、修治が風太に怒っている。
「だってそうだろ! 恭介はハクシキ?でウヤマウ?だけど、修治はただのバカだからな!」
ストレートな言葉に、修治がのけぞる。
「こら、風太。そんな言い方をするもんじゃない」
恭介がたしなめると、修治が背後から反論した。
「そうだぞ! お前らが知らないだけで、大学に戻ったら “きゃ〜!修治君、素敵〜!”って言われてるんだからな!」
すると風太が冷静に言い放つ。
「修治……。人は、お前が思ってるほど、お前のことをかっこいいとは思ってないぞ。な、座敷童子」
座敷童子が大きく頷く。
その様子に、美咲と恭介は顔を見合わせて吹き出した。
「な! なんだよ! 二人まで笑うなよ!」
修治が叫ぶと、美咲はお腹を抱えて笑い、
恭介も思わず笑顔をこぼす。
笑い声が夜空に広がる中、修治はそっと美咲を見つめた。
(……美咲が笑ってる。今はそれだけでいい)
ここへ来てから、修治は決めていた。
──美咲が笑顔でいられるなら、どんなピエロにだってなる。
たとえ、それが届かない想いだとしても。




