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夜に咲くひまわり

 「はぁ……」


 食事を終えた後、美咲は縁側に腰を下ろし、夜空を見上げてため息を吐いた。

(そういえば……私、失恋なんてしたことなかったな)

 苦笑しながら呟く。


 空と恭介のことを考えると、胸の奥にどす黒い感情が広がり、そんな自分が嫌になる。


「私、ダメだな〜」


両頬をぱん、と叩いて自分を鼓舞する。


「笑え! 私、笑え!」


 必死に笑顔を作っていると、頭に何かがコツンと当たった。


 足元に転がる栗を拾い上げると、少し離れたところに修治が立っていた。


「聞いてたの?」

 美咲が驚くと、修治は静かに隣に座り、ぽつりと言った。


「無理に笑わなくて……いいんじゃない?」


「え?」


「確かに、俺は笑ってる美咲が好きだけどさ。

 最近の笑顔、見てると……痛いよ」


 夜風が二人の間を通り抜ける。


「辛いなら、辛い顔してもいいんじゃない?」


「でも、そんな顔したら教授が気を使うでしょ?」


「使わせればいいんだよ!」

 修治が思わず声を荒げた。


「なんで美咲だけが我慢しなきゃいけないんだよ!」


 その勢いのまま、美咲を抱きしめた。


「いつだって笑って、自分の気持ちを押し殺して……見てる俺が辛い」


「修治……」


 美咲は小さく微笑むと、修治の背中を軽く叩いた。


「ありがとう。でも、大丈夫。これでも案外、強いんだから」


 そして、いつものように冗談めかして笑う。


「もしかしたら、教授が空さんにフラれて、慰めてるうちに恋に発展するかもしれないし?」


 修治の腕からそっと抜け出すと、美咲は夜空を見上げた。


「私、たとえ可能性が1%でも諦めない。

 大学じゃ変人扱いでライバルなんていなかったけど……やっと戦える相手が現れたんだもん。負けないよ」


 そう言って、月明かりを背に立ち上がる。

 振り返って微笑むその姿に、修治は息をのんだ。


 彼にとって、美咲はいつも太陽のような人だった。

 明るくて、前を向くことを忘れない。

 けれどこの里に来てから、その笑顔の奥に影があるのを彼は気づいていた。


(……俺だったら、そんな顔、絶対させないのに)


 心の中で呟きながら、修治はそっと彼女の背中を見守った。


 そのとき──


「あれ? 修治と美咲、何してるんだ?」


 風太が恭介と座敷童子を連れて現れた。


「あ、風太君に座敷童子ちゃん。それに教授まで。

そっちこそどうしたんですか?」


 笑顔で答える美咲に、風太が胸を張る。

「恭介に星座を教えてもらうんだ! 

知ってたか? 夜空の星には名前があるんだぞ!」


「風太ちゃん、それくらいみんな知ってるって」

 修治がドヤ顔で言うと、風太はむっとして腕を組む。


「じゃあ修治、どの星がどの名前か教えてみろよ!」


「ふふん。いいだろう。この“博識修治様”が教えてあげよう」


 そのやり取りに、恭介が小さく笑う。


「恭介、博識ってなんだ?」


「たくさんのことを知ってる人のことを言うんだよ」


「へぇ〜」


 風太が感心している横で、修治は胸を張って言った。

「風太ちゃん、今からでも遅くない。この天才修治様を敬っていいのだぞ!」


「恭介、敬うってなんだ?」

 すぐに質問が飛ぶ。


「そうだな……“すごい人だな”って思うこと、かな」


 真面目に答える恭介を見て、美咲は吹き出した。


「藤野君、何を笑ってるんだ?」


「だって教授、講義してるより難しい顔してますよ」


 恭介は少し照れたように鼻をかいて言った。

「子供に分かりやすく説明するって、案外難しいんだよ」


 その笑顔を見て、美咲は胸の奥でそっと呟いた。


(ずるい……)


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