冷めゆく茶碗蒸し
その日、風太が言っていた通り、食卓には茶碗蒸しと竹の子ご飯が並んだ。
「肉! 久しぶりの肉だぁ〜!」
修治が大声を上げると、美咲が即座に頭を叩いた。
「うるさい! 風太君と座敷童子ちゃんを見てごらんなさい。ちゃんと静かに待ってるでしょ!」
「そんなに肉が食いたいなら、俺の分をやるか?」
恭介が竹の子ご飯を差し出すと、修治が嬉しそうに手を伸ばした。
──ぱしっ。
風太がその手を叩いた。
「修治! ダメだぞ!
オイラが大龍神様の神殿まで行って、恭介のためにもらってきたんだ!
お前は自分の分を食え!」
怒りながらも真っ直ぐなその瞳に、恭介は思わず苦笑した。
「恭介も恭介だぞ! せっかくの肉なんだから、ちゃんと食べなくちゃダメだ!」
「はいはい、分かったわよ。じゃあ、食べましょうか」
美咲が仲裁のように笑って言った。
だが恭介は、食卓を見回して眉を寄せた。
「藤野君、空さんがまだ……」
「空さんなら、出かけましたよ」
美咲が彼の言葉を遮るように答える。
「出かけた?」
「ええ。大龍神様の神殿をお守りする当番だそうです。……今日は戻らないって」
「……そうか。居ないのか」
恭介は箸を見つめたまま、小さく呟いた。
記憶が戻った今、空に確かめたいことがいくつもあった。
けれど、まるで避けられているような気がしてならない。
そんな恭介をじっと見つめていた風太が、突然言った。
「恭介は、空が好きなのか?」
「え……?」
不意を突かれて固まる恭介。
「恭介と空がくっつけば、恭介はずっとここに残れるのにな。な、座敷童子!」
風太が笑顔で言うと、座敷童子は小さく首を横に振った。
「なんだよ、座敷童子! お前、恭介が嫌いなのかよ!」
風太が不満そうに言うと、座敷童子は美咲の顔を見た。
「あっ……そうか!」
風太が手を打って笑った。
「美咲は恭介が好きなんだな。じゃあ、オイラ諦める。美咲も大好きだから、悲しむなら恭介とバイバイできるぞ!」
その言葉に、美咲の胸が締めつけられた。
(……とっくに失恋してるのに。教授にとって、私はただの“生徒”のまま)
唇を噛みしめ、震える声を押し殺す。
「ほら! 無駄話してないで、食べよ?
せっかく風太君がもらってきた卵と鶏肉なんだから!」
そう言って、美咲は無理に笑顔を作り、
「いただきます」と言って茶碗蒸しを口に運んだ。
だが、胸の奥が熱くて、味が分からなかった。
(空さん……。
どんなに誤魔化しても、こんなに愛情のこもった料理を出されたら、あなたが教授をどう思ってるのか、分かっちゃうじゃないですか……)
美咲は涙をこらえて、ただ箸を動かし続けた。




