失われた家族
彼女は見た目とは違い、自由でおおらかな性格だった。
ある日、今にも消えそうな座敷童子を連れ帰ってきて、自らの力を分け与え、命を繋ぎとめたことがあった。
そのたびに彼女は倒れ、恭介を心配させた。
「お前、もう少し自分を大切にしたらどうだ?」
そう言うと、彼女は驚いた顔をして微笑んだ。
『それは恭介さんの方です。
私はこの里にいれば、力は戻ります。
でも、あなたは限りある命。
……もっと、自分を大事になさい』
そう言われ、恭介は逆に叱られてしまった。
いつしか、そんな彼女に特別な想いを抱くようになっていた。
けれど、いずれ自分は“元の世界”に戻される身。
この気持ちを伝えても、届くはずがない。
だから恭介は、想いを胸に閉じ込めることを選んだ。
──しかしある日、彼女は穏やかな声で尋ねた。
『恭介さん。……私が何者か、分かっていますか?』
「はぁ? 龍神だろう?」
呆れたように言う恭介に、彼女は柔らかく微笑む。
『あなたの考えていること、感じていることは、
すべて筒抜けなのですよ』
その言葉に、恭介の顔が一気に熱くなった。
そして彼女は、静かに告げた。
『恭介さん。私はずっと、あなたが好きでした。
どうか……私を、あなたの妻にしてください』
とんでもない言葉に、恭介は何も言えなかった。
けれど、拒む理由も見つからなかった。
こうして恭介は、彼女と共に生きる道を選んだ。
最初は大反対していた大龍神も、
彼女の懐妊を知ると、二人に“龍神の里で最も穏やかな地”を与えた。
やがて産まれた子は、風の神としてこの世に生を受けた。
半分は人の血を引いていたため、龍神にはなれなかったが、彼女はそれでも幸せそうに微笑んだ。
『この子は……風太。風太と名付けましょう』
(……風太は、俺の子供だったのか)
恭介は、ぼんやりと蘇る記憶を見つめながら呟いた。
彼女は決して誰にも育児を任せず、
不器用ながらも自分の手で風太を育てた。
『恭介さん。私は龍神として生まれ、
この移ろう世界を見守るだけで終わると思っていました。
でも、あなたに出会って“愛する”ことを知り、
こうして子どもを授かりました。私は、幸せ者です』
(……微笑む彼女と、なぜ俺は離れたんだろう)
そう考えた瞬間、再び記憶の闇が押し寄せた。
(ダメだ……その先が大切なのに、また記憶が飲み込んでいく)
恭介は必死に抵抗し、闇の中でもがく。
(微笑む君の名前は……?)
(そして、俺たち家族はなぜ……引き離された?)
暗闇の奥で、彼女の笑顔が遠ざかっていく。
(まだ生まれたばかりの風太を抱いて、確かに君は隣で笑っていた──)
恭介は、崩れ落ちる記憶の糸に手を伸ばした。
(行くな! 俺のそばから離れるな!)
──その瞬間、名前を呼ぼうとした恭介は、目を覚ました。




