表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/50

失われた家族

 彼女は見た目とは違い、自由でおおらかな性格だった。


 ある日、今にも消えそうな座敷童子を連れ帰ってきて、自らの力を分け与え、命を繋ぎとめたことがあった。

 そのたびに彼女は倒れ、恭介を心配させた。


「お前、もう少し自分を大切にしたらどうだ?」


そう言うと、彼女は驚いた顔をして微笑んだ。


『それは恭介さんの方です。

 私はこの里にいれば、力は戻ります。

 でも、あなたは限りある命。

……もっと、自分を大事になさい』


 そう言われ、恭介は逆に叱られてしまった。


 いつしか、そんな彼女に特別な想いを抱くようになっていた。

 けれど、いずれ自分は“元の世界”に戻される身。

 この気持ちを伝えても、届くはずがない。


 だから恭介は、想いを胸に閉じ込めることを選んだ。


 ──しかしある日、彼女は穏やかな声で尋ねた。


『恭介さん。……私が何者か、分かっていますか?』


「はぁ? 龍神だろう?」


 呆れたように言う恭介に、彼女は柔らかく微笑む。


『あなたの考えていること、感じていることは、

 すべて筒抜けなのですよ』


 その言葉に、恭介の顔が一気に熱くなった。


 そして彼女は、静かに告げた。


『恭介さん。私はずっと、あなたが好きでした。

 どうか……私を、あなたの妻にしてください』


 とんでもない言葉に、恭介は何も言えなかった。

 けれど、拒む理由も見つからなかった。


 こうして恭介は、彼女と共に生きる道を選んだ。


 最初は大反対していた大龍神も、

 彼女の懐妊を知ると、二人に“龍神の里で最も穏やかな地”を与えた。


 やがて産まれた子は、風の神としてこの世に生を受けた。

 半分は人の血を引いていたため、龍神にはなれなかったが、彼女はそれでも幸せそうに微笑んだ。


『この子は……風太。風太と名付けましょう』


(……風太は、俺の子供だったのか)

恭介は、ぼんやりと蘇る記憶を見つめながら呟いた。


 彼女は決して誰にも育児を任せず、

 不器用ながらも自分の手で風太を育てた。


『恭介さん。私は龍神として生まれ、

 この移ろう世界を見守るだけで終わると思っていました。

 でも、あなたに出会って“愛する”ことを知り、

 こうして子どもを授かりました。私は、幸せ者です』


(……微笑む彼女と、なぜ俺は離れたんだろう)


 そう考えた瞬間、再び記憶の闇が押し寄せた。


(ダメだ……その先が大切なのに、また記憶が飲み込んでいく)


 恭介は必死に抵抗し、闇の中でもがく。


(微笑む君の名前は……?)

(そして、俺たち家族はなぜ……引き離された?)


 暗闇の奥で、彼女の笑顔が遠ざかっていく。


(まだ生まれたばかりの風太を抱いて、確かに君は隣で笑っていた──)


 恭介は、崩れ落ちる記憶の糸に手を伸ばした。


(行くな! 俺のそばから離れるな!)


 ──その瞬間、名前を呼ぼうとした恭介は、目を覚ました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ