表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/50

沈む記憶

「あれあれ? 教授、ご機嫌ななめですか?」


 イライラして叫んだ恭介の背後から、呑気な声が響いた。

振り向くと、修治が籠いっぱいの栗を抱えて歩いてくる。


「片桐……」

いつも通りの調子に、恭介は思わず苦笑した。


「見てくださいよ。向こうの山に行くと、栗がなってるんですよ。

風太君に教えてもらったんですけど、此処って季節が場所によって違うらしいっす」


 修治はそう言うと、栗の実を一つ放って寄越した。

恭介は手のひらに乗せた立派な栗を見つめながら、無意識に呟いた。


「……此処は、俺たちがいる場所は春しかない一年中穏やかな気候の場所。

夏と秋は山向こう、冬は大きな川を越えた先になる。

この場所は、風太を育てるのに一番適していると言われて──

大龍神が与えた場所なんだ」


言い終えた瞬間、ハッとして息を呑む。


「へぇ〜、教授。さすが詳しいっすね」

修治が笑った、その時。


ズキン、と鋭い痛みが恭介の頭を貫いた。


「うっ……!」


「教授? どうしたんですか、教授!」

修治の声が遠ざかる。


視界がぐにゃりと歪み、色が褪せていく。

世界が音を失い、ただ自分の心臓の音だけが響く。


暗い。

真っ暗だ。


 記憶の底──黒い沼に、ゆっくりと沈んでいくような感覚。


『……大丈夫ですか?』


その声は、確かに聞こえた。

あの日も、同じ声が、自分にそう言ってくれた。


 遠のく意識の中で、修治の声がどんどん離れていく。

そして恭介は、抗う間もなく、

深く、暗い記憶の渦へと──沈んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ