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封印の代償

 空は悲しそうに顔を歪めると、震える声で言った。

「それが……思い出さない方が良い記憶だとしても……ですか?」


「それは俺が決める!」

恭介の声が河原に再び響く。

「……あんたに分かるか? 二年間、自分がどこで何をしていたのかも分からずに生きる苦しみが!」


その瞬間──


「やめろ!」


鋭い声が響き、突風が巻き起こった。

激しい風が恭介の体を包み、空の肩を掴んでいた手が弾き飛ばされる。


風が収まると、空の前に風太と座敷童子が立ちはだかっていた。


「空をいじめるな!」

風太が叫び、怒りのこもった瞳で恭介を睨む。


「風太、違うんだ!」

「何が違うんだよ! 空が悲しそうな顔してるだろ!

 オイラ、恭介が大好きだけど……空をいじめる恭介は大嫌いだ!」


その言葉と共に、再び強風が渦を巻く。

河原に砂と水が舞い上がり、恭介は目も開けられないほどの風に覆われた。


「風太! ダメ!」


空が叫び、風太の身体を強く抱きしめる。


「風太、怒ってはダメ……。

 それに、恭介様は私を虐めていたわけではないの」


空が優しく背中を撫でると、竜巻のようだった風の渦が次第に弱まり、静けさが戻る。


「……本当に? 本当に恭介にいじめられてなかったのか?」

風太が心配そうに尋ねる。


「ありがとう、風太。ちょっと話をしていて、お互いに感情的になってしまっただけだから」

空が微笑みながら頭を撫でると、風太はまだ不満そうに唇を尖らせながらも、恭介を睨んで言った。


「また空を泣かせたら、オイラ……恭介のこと嫌いになるからな!」


そう言い残し、空と手を繋いで家へ帰っていった。


 恭介はその背中を見送りながら、力なく近くの岩に腰を下ろす。

頭を抱えた彼の前に、座敷童子が静かに立っていた。


その小さな手が恭介の手に触れる。

そして、悲しそうに首を横に振った。


「……お前も、俺が記憶を取り戻すのに反対なのか?」


恭介はかすれた声で笑う。

だが、その胸の奥では、何かが堰き止められたまま溢れ出そうとしていた。


──その時だった。


『……恭介……ダメ……。記憶……戻っ……ら、……が……殺されちゃ……の……』


頭の中に、小さな声が途切れ途切れ直接響いた。

それは確かに、座敷童子の声だった。


恭介は目を見開き、彼女を見つめた。

座敷童子も驚いたように恭介を見返している。


「殺されるって……何だよ。

俺は、忘れた記憶を思い出したら殺されるのか?」


座敷童子は慌てて手を離し、後ずさるように首を横に振る。


「なぁ! お前らは……何を知ってて、何を隠してるんだよ!」


怒鳴り声が響くと同時に、座敷童子は怯えたように走り去っていった。


恭介は頭を抱え、空を仰ぐ。

「……何なんだよ……!

だったら、今すぐ元の世界に戻せよ!」


 その叫びは虚空に溶け、風だけが答えるように吹き抜けていった。


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