封印の記憶
「空さん!」
洗濯物を抱えて河原へ走る空を追いかけ、恭介はその腕を掴んだ。
驚いたように振り返った空の瞳が、わずかに揺れる。
「どうしてあなたは、俺の顔を見ると逃げるんですか?」
恭介の声には、怒りよりも苦しさが滲んでいた。
「それを言うなら……どうしてあなたは、毎回追いかけてくるんですか?」
「それは、あなたが逃げるからでしょう!」
「じゃあ何ですか? 私が悪いって言いたいんですか?」
「そうじゃない!」
「だったら……私のことは放っておいてください!」
空はそう叫ぶと、恭介から視線を逸らした。
強い拒絶の気配に、恭介は言葉を失う。
しばしの沈黙のあと、ぽつりと呟いた。
「……そんなに、俺が憎いのか?」
「え?」
空が驚いたように顔を上げる。
その一瞬の表情を見て、恭介は確信した。
「……思い出したんですか?」
空の声が、わずかに震える。
恭介は何も言わず、ただその瞳を見つめた。
すると空が小さく息を呑み、唇から漏れるように呟いた。
「どうして……? 封印は完璧だったはず……」
「やっぱりな」
恭介の声が低く響く。
「あなたは……俺の“空白の二年間”の鍵を握っていたんだ」
その言葉に、空の顔が強ばった。
「……騙したんですか?」
「騙してなんかいませんよ。まぁ、カマをかけましたけど」
恭介は皮肉げに笑い、肩をすくめた。
「なぜ、そんなことを……」
「なぜだって?」
恭介の声が少しだけ熱を帯びる。
「俺さ、この場所に来た時、不思議と懐かしかったんだよ。
初めて来たはずなのに、どこに何があるのか全部わかる。
今、住んでる家だってそうだ。
まるで、前にもここで暮らしていたみたいに」
空は目を逸らし、冷静を装うように言った。
「日本家屋なんて、どこも同じ作りです。……不思議なことではありません」
背を向けようとするその肩を、恭介が強く掴んだ。
「俺は今日一日、この森を歩いてみたんだよ。
川の場所も、木の実のなる場所も、何もかも知っていた。
まるで──記憶の奥底に刻まれていたみたいに。
これって、どういうことなんですかね?」
空の肩を掴む手に、力がこもる。
「あなたは何を知っているんですか?
“封印”って何ですか?
俺は一体……この場所で何をしていたんですか!」
恭介の声が、森に響き渡った。




