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第三話:果実と羽根の試練

時を越えた二人が辿り着いたのは、2500年前の黒岩島。

出迎えたのは、若き戦士タラニと、自然と共に生きるカリオペ族の人々。


だが、彼らは外から来た者に対して警戒心を隠さない。

信頼を得るには「自然を尊び、知恵をもって成す」試練を乗り越えなければならない。


生き延びるための力を、今、二人は試される──

「時の旅人……お前たち、本当に人か?」


青年・タラニは鋭い視線でアキラとミオを睨んでいた。

彼の肩には鳥の羽根で編まれたマント、腰には磨かれた石の短剣。

その姿は、ただの戦士ではない。「島」と共に生きる者の威厳があった。


ミオは震える声で答える。「わ、私たち……敵じゃない……」

ぎこちないカリオペ語だったが、誠意は伝わった。


アキラも一歩前に出て言う。「俺たちはこの島の謎を学びに来た。穢すつもりはない」

タラニはしばし沈黙した後、低く言った。


「言葉では信じぬ。試練を受けろ」


そうして彼らが連れて行かれたのは、黒岩島の内陸部に広がる聖域の森だった。


「この森にいる〈聖なる鳥〉――カリオペカモメは、我らの精霊の使いだ。決して傷つけてはならぬ。だが、その鳥が守る果実〈ナミリの実〉を取ってこい。それができたなら、お前たちを仲間と認めよう」


森は静かだった。湿った葉の匂い、太陽の届かない鬱蒼とした空間に、鳥の羽音が響く。


「ミオ、これ……任せるぞ」


「う、うん……でも、どの草があの鳥を遠ざけるかわかれば……あっ、これ!」


ミオが見つけたのは、細い葉から独特の強い匂いを放つ草だった。

「この香り、カモメ類が嫌がる成分があるって本で読んだの。火にくべて、煙で追い払えるかも!」


アキラは手際よく小さな焚き火を用意し、草をくべる。

煙がゆっくりと広がると、枝の上にいたカモメたちが小さく鳴き、飛び立っていった。


「……今だ」


ナミリの実は薄紫の果実で、甘い香りを放っていた。

アキラが慎重にそれを摘み取り、袋に収める。


だが、その瞬間――


「ギャアッ!」


一羽のカモメが彼の頭上をかすめ、鋭いくちばしで警告のように鳴いた。


「まずい、警戒されたか……」


ミオは急いでもう一本の草を火に投げ入れ、さらに煙を強めた。


「お願い、少しだけ……貸してね……!」


やがて鳥たちは完全に飛び去り、森は静寂を取り戻した。


数時間後、焚き火の前。

アキラとミオがナミリの実を差し出すと、タラニは目を見開いた。


「……見事だ。精霊を怒らせず、果実を手にするとは」


彼は真顔でうなずき、二人に向かって掌を差し出す。


「お前たちを“仲間”と認めよう。我が族に伝わる技を授ける」


それは、次なる島々を生き抜くために必要な「術」だった。


数日間、二人はタラニから徹底的なサバイバル訓練を受けた。


弓と矢

竹と蔓、石の矢じり、羽根の矢羽根。

遠くの標的を撃ち抜く技術は、現代の知識だけでは補えない原始の技。


防具の知恵

樹皮とヤシの繊維で作る胸当てと腕当て。

自然の恵みを「守るため」に使う知恵をタラニは繰り返し強調した。


狩猟の心得

「無益に殺すな。必要な分だけ取れ」

それがカリオペの教えだった。


ある夜、満天の星の下でタラニは語った。


「試練とは、敵と戦うことではない。

風と語り、星を読み、己と向き合うことだ」


ミオは焚き火に照らされながら呟いた。


「不思議……怖いのに、少しずつ楽しくなってきた……こんな風に生きるの、きっと忘れたくない……」


アキラも静かに頷いた。「この島がくれた時間、無駄にはできない」


その時、空間がわずかに震えた。

星空の中心がねじれ、波のような光が彼らを包み込んだ。


「戻るのか……!」


ミオが手を伸ばす。「タラニ……ありがとう……!」


タラニは最後に言った。


「次の島では、真の“選択”が待っている。心を忘れるな」


そして──二人は、再び現代へと還る。


島の「声」が、彼らを導くように響いた。


「旅人よ……試練は続く。記憶を抱きしめ、次の波濤へ向かえ……」

カリオペ族の若き戦士・タラニとの出会いと、自然との共生を学ぶ時間。

果実を取るという小さな挑戦が、やがて彼らの力となってゆきます。


次回からはいよいよ第二の島、「珊瑚島」編が始まります!

試練はより過酷に、記憶の代償もさらに深く──


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