第1話:黒岩島 ― 試練の目覚め
遠い南の海、忘れられた島々に眠る「星の力」と「記憶の断片」。
不老不死を求めた調査隊は、嵐の夜に試練へと導かれる──
考古学者アキラと植物学者ミオ。
二人の目覚めた場所は、黒き岩の孤島だった。
これは、時と波濤に試される“旅人”たちの物語。
――嵐の夜、海が歌う。試練の声に、誰が応えるのか。
2025年5月12日の夜、雷鳴が空を裂き、漆黒の海が獣のように唸っていた。
南太平洋・カリオペ諸島の外縁を進む調査船「アルゴ号」は、暴風の中でも必死に進路を保っていた。
この遠征の目的は単なる地質や生態の調査ではない。
伝承に語られる「不老不死のエネルギー源」――カリオペ文明の遺産。
その実在を示す文献に魅せられたのが、32歳の考古学者、アキラ・霧島だ。
「帆を畳め! このままじゃ沈むぞ!」
甲板でロープを握るアキラの叫びも、風と波の咆哮にかき消された。
船体は悲鳴のような軋みを上げ、巨大な波が船を持ち上げ、打ち砕こうとしている。
その頃、船室では28歳の植物学者、ミオ・葉月が祈るように植物図鑑を抱きしめていた。
「お願い……誰か……」
彼女はカリオペ諸島に生息する未知の植物に興味を持ち、今回の調査に同行していた。
だが自然の猛威の前では、知識も役に立たない。
──その時、波の音に混じって聞こえた。
「……旅人よ……試練を……受けよ……」
どこからともなく響く、不思議な声。
低く、湿った空気に溶けるような囁きだった。
アキラは耳を疑った。
「幻聴か……嵐の中で、ありえない」
しかし、ミオも呟いた。
「島が……呼んでる、みたい……」
理性では説明できない現象に、アキラは顔をしかめた。
次の瞬間、船体が大きく傾き、轟音とともに船が波に呑まれた。
──闇。
***
朝。
微かに波の音がする。潮のにおいが鼻をついた。
アキラが目を覚ましたとき、身体は冷たく濡れ、背中には鋭い岩の感触があった。
見上げた空は灰色、波が足元を洗っている。
「……黒岩島……?」
辺りには折れたマストや帆、ロープの残骸が散乱し、沈んだアルゴ号の名残を物語っていた。
「ミオ……ミオ、どこだ!」
叫びながら浜辺を走るアキラの目に、岩陰に倒れる女性の姿が映る。
「ミオ!」
額に小さな傷を負いながらも、ミオは植物図鑑を抱えたまま意識を失っていた。
アキラが水をかけ、頬を叩くと、彼女はかすかに目を開けた。
「……アキラさん……? 生きてるの……?」
「なんとか、な。お前も無事でよかった」
ミオは起き上がりながら、ぽつりと呟いた。
「……昨夜、変な声が……また聞こえた気がして……」
アキラは黙って海の方を見やった。
理屈では説明のつかない何かが、この島にはある――。
***
黒岩島は、荒涼とした火山島だった。
黒々とした玄武岩の崖、低木とヤシの木が点在し、波が激しく岩に砕ける。
海は渦巻き、脱出は不可能に思えた。
「まず、水と食料、寝床の確保だ」
アキラは腰のサバイバルナイフを確認し、ミオも植物図鑑とハンドスコップを握りしめる。
ミオは図鑑を見ながらヤシの実を見つけ、誇らしげに笑った。
「これ、食べられる! 図鑑で調べたの!」
「上出来だ。だが……水は?」
アキラは岩のくぼみにヤシの葉を敷き、雨水をためる即席の貯水槽を作った。
流木とロープで簡易シェルターも組み上げる。
ミオは薬草や根菜も見つけたが、赤いベリーを摘もうとした瞬間、アキラが止めた。
「それは毒だ。図鑑に載ってるはずだろ」
「……ほんとだ。ごめんなさい……」
「いい。だが、無茶はするなよ」
「うん、約束!」
その時、風がざわめき、遠くで雷鳴が鳴った。
そして――あの声が、再び囁く。
「……試練を……乗り越えよ……」
アキラは、耳を疑いながらも、胸に湧き上がるざわめきを抑えきれなかった。
***
日が傾くころ、二人は浜辺の岩場で奇妙な金属製のコンパスを発見する。
表面には見たこともない文字が刻まれていた。
現代のものではない。明らかにオーパーツと呼ばれるような、異質な存在。
「これは……超古代文明の遺物か?」
アキラが手に取ると、コンパスの針がくるくると回り――ピタリと島の中央を指した。
「……あの遺跡を、示してる?」
ミオは身を寄せながら、震える声で呟く。
「何かが……待ってるのかな。怖いけど、知りたい……」
アキラは真剣なまなざしで、コンパスの指す先を見つめた。
――このコンパスが指してるのは、あの遺跡だ。
その針の先に、彼らの運命が待ち受けていた。
▼ 次回予告
次回「星の扉と時の渦」――星の導きが、二人を時の試練へと導く。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
第一話では、嵐の漂流から始まり、謎の声と遺跡、そして島の意思のような何か──
物語はまだ序章。次回は「星の扉と時の渦」。
遺跡と星座、そして〈時間跳躍〉が動き始めます。
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更新は定期的に予定しております。
では、また黒岩島の空の下でお会いしましょう✨