1話:雨の日
ボッチとは。
よく1人だけの人間をボッチや一匹狼と表現する人間がいるが、ボッチと人間は異なる存在だ。
そもそも一匹狼とは誰かと関わったり、仲間を作ったりするのが面倒、好まない人間の事であってボッチとは全く別次元の人間だ。
そもそもボッチとは社会不適合者、人間という群れをなす動物から離され、誰かと関わることを苦手とする異端であり、仲間を作ることを苦手とする人種のことである。
ここが一匹狼とは全く異なる所だ。
一匹狼は群れる事を好まない。
そしてボッチは群れることが苦手なのだ。
要は一匹狼もやろうとすれば群れる事が出来るという事なのである。
そしてボッチは自分が望んでも、努力しようとも群れる事が出来ない、可愛そうで、無様で、滑稽な人間なのだ。
例えば誰かに話しかけられたり、遊びに誘われても「な、なんでひょうか!?」と変な鳴き声を上げたり、変にネガティブな考えばかり考えて「罰ゲームで話しかけられてんのかな?」とか考えてしまったりしている。
他にもクラスが皆でメールを交換しようとして、いざ交換しても一体どんなことを話せばいいかわからず、皆がメールで盛りあがっていても、既読をつけるだけで、何も返事をすることなく、ただクラスのメールのやり取りを見ていることしか出来ず、次第にその存在自体を忘れられ、いつの間にか自分の居ないグループLINEが作られ、次第にクラスの集まりや遊びなどからもハブられていくのだ。
そうして帰りは皆が一定のグーループを作って遊んだり話している中、ボッチは誰にも気づかれないよう音を立てずに家に帰り、1人寂しくゲームしたり、リア充共に憧れて好きでも無いゲーセンなどに行って遊ぶことしか出来ない。
これがボッチと言う生態だ。
文句あんのかゴラァ。
▷▶︎▷
「あんた寂しくないの?」
「全く」
「そんなんだからボッチなんだよ」
「ボッチじゃねぇ!一匹狼だって言ってんだろ!ぶっ殺すぞゴラァ!!」
今この世界には人間と【新人】が居る。
外人とは、人ならざる人間の力を持つ者を呼び、そのもの達は新たなる世界を生きる為に進化した者達。
その者達は皆【異能】を持ち、人外の力を持つ。
例えば今話しているこの女、神崎 境庫は人外の力である【異能】を持って居る。
そしてその【異能】には0〜6のランクがあり、彼女のランクは世界でも5人しかいないと言われる最高危険度の6だ。
さて、そんな彼女の前で俺が財布を差し出して土下座しているのかと言うと、突然声をかけられて「ちょっと小銭貸して」と所謂カツアゲにあっているからである。
そして何故ボッチと一匹狼の違いを力説しているかと言うと、なぜ異能を持たないただの人間が一人でいるのか聞かれたので、丁寧に分かり易く答えただけである。
「キャッシュカードの暗証番号は※※※※です!財布の中身も全部もってって良いのです!なんならここで裸踊りでも靴でも舐めるので命だけは助けてください!」
「ねぇ私500円貸してって言っただけだよね?耳大丈夫?」
「どうか!自分に差し出せるものは全て差し出すので命だけは助けてください!!」
「君アレだ、馬鹿でしょ」
「ごめんなさい!」
「あ、うん、なんかごめん。じゃぁ500円だけ借りてくね?明日返すね」
「差し上げます!」
「うん、じゃぁ借りてくね?バイバイ」
そう言って境庫は小さく手を振って何処かに消えて行った。
そして足音が無くなり、居なくなったのを確認してから俺は頭をあげる。
「た、助かったぜ。あの女、俺の土下座に恐れを成して逃げたか」
俺はそう言って財布を尻ポケットにしまう。
さて、ここで新人の危険度ランクだが、0は人に危害を加えない、傷つけることの出来ない異能の事を言う。
これは【治癒】等が当てはまる。
そしてランク1は多少であるが、人間に軽い怪我、軽傷などを負わせることのできる人間のことを言う。
これは様々なものがあるが、例えば【※付着】などが当てはまる。
※何処かにくっ付いたりすること、ヤモリのようになる。
これは直接人に危害を加えることは無いが、使いようによっては人を傷つけるということからランクが1だ。
そしてランク2、これは人を殺傷しうる【異能】である。
例えるならば【※着火】が当てはまる。
※指先からライターのように小さな火が出る。
そしてランク3、これは多人数を殺す殺すことの出来る【異能】のことを言う。
例えるならば【※刃】が当てはまる。
※体の一部を刃物のように鋭くする。
そしてランク4、ここからは事件を起こせば警察の即射殺が許可されている。
例えるならば最近起きた異能テロで犯人の使った【異能】である【※ボマー】だ。
※触れた生物を爆弾に変える。
犯人は警察のスナイパーによって即射殺された。
そしてランク5、このランクは過去にアメリカのテロ犯が事件を起こし、鎮圧に向かったアメリカ軍の半数以上を壊滅させた事もある危険度だ。
テロ犯の異能は【※発火】、この犯人は特殊異能殲滅部隊によって鎮圧され今年処刑された。
※視界に入ったものを発火させることが出来る。
そして最高ランクの6は国によって核爆弾と同レベルの危険性を持つと判断された新人に付けられるランク。
名前は公開されているが、その異能は公開されておらず、知っているのは軍の最高司令官や国のトップにしか明かされていない。
そしてさっき会った彼女、コードネーム【宇宙】と呼ばれる新人、神崎 境庫もまたランク6の新人という事しか公開されておらず、その異能は不明である。
「やべ、雨降ってきやがった」
空を見れば黒い雲が空を覆い、ポツポツと雨が降り始めていた。
俺は高校のカバンを傘の代わりにして急いで自信の住んでいるマンションに走る。
雨は直ぐに土砂降りとなり、雨の水が下着にまで侵入してきた所で、俺は家に付く。
「あーあ、びちゃびちゃだよ」
「···············」
そう言いながらカバンに着いた雨水を払い、カバンの中に入れて置いた鍵を取り出す。
家の正面でダンボールの中に座り、「拾ってください」と書かれたプレートを首から下げてるロリなんて見えない。
「早く風呂入りてぇ」
「····················」
これはなにかの幻覚だ。
先程突然ランク6の化け物に会ったばかりなんだ、まだ俺の脳内が混乱しているに違いない。
そうであってくれ、そうでなきゃこの状況はおかしいんだ。
「·························」
「···············」
瞬きすらせずこちらを見つめてくるスク水ロリに恐怖すら覚えながら、俺は家の鍵を開ける。
そしてドアを開けて家の中に入ろうとした時
───ゴアアアァァッ!!
「!?」
突然のゴジラの鳴き声みたいな音に驚きながら、音源の方を見ればスク水ロリの腹から聞こえてきた。
(いやいや、腹の虫の音がゴジラの鳴き声とかある?)
───ギシャアアアァァァォォッ!!
(まさかの次はキングギドラ!?)
「あ」
「····················」
つい目が合ってしまった。
こちらを見つめるスク水ロリと、どう知ればいいかわからずなんて声をかければいいか分からない俺。
迷った末に俺の出した答えは
「い、家の中入りましゅか?」
噛んだ。