はぐれ者
―レイドとカアラが下層へ到着した頃。
―中層。
「―の戦闘で殺したのが3増えただろ?」
「はぁ。」
「で、シャルが吹き飛ばした原生生物は母体だったから―」
「…はぁ。」
「―ィミー?」
「…はぁ。」
「ティミー!」
「え!?あ、ごめん。なんだっけ?」
「しっかりしろよ!原生生物を狩るんだろ?」
「はぁ、はぁ。そ、そうだね。」
「討伐数が1000を越えたら遊撃隊への入隊試験が受けられるんだぜ!早く遊撃隊に入って、糞まずい携帯食料とはおさらばしたいな!」
「はぁ、はぁ。」
二列で並んでらせん状の道を走る二人。背格好は他の隊員よりも一回り程小さく、羽織っているコートの先が地面に擦れている。自分の顔くらい大きな求光灯を掲げながら一生懸命に顔を上げて走る。他の隊員と変わらない、その体に似つかわしくない大きなバッグを背負い、小さな歩幅で懸命について行くが、徐々に前を行く隊員との距離が遠くなっていく。
「ほらティミー!急げ!置いてかれたら死んじまうぞ!」
「はぁ、はぁ。ま、待って。」
ティミーと呼ばれた少年は、カバンや腰回りに装着した装備品をカチャカチャと鳴らしながら、駆け足で急ぐ。コートの影から見える金髪が求光灯の光に照らされてきらびやかに輝く。
「ほら、頑張れって!」
ティミーの少し前を走る少年は、求光灯を持つティミーの左手を引っ張って、前の隊員について行けるよう手を引いている。
手を引く少年の顔が、ティミーの持つ求光灯によってはっきりと照らされた。左瞼の上から一直線に口元へ、大きく深い傷が刻まれていた。左目は完全に閉じており、赤黒い線のような無数の傷跡が深い傷を中心として血管のように左右へ、枝分かれのように伸びていた。
「はぁ、はぁ。ごめん、レジィ。僕もう―」
ガシャンと前のめりに倒れ、カバンの下敷きになるティミー。顔を上げ、列の位置を確認するが、前を行く隊列は止まる気配もなく進んでいく。暗闇の中で光の列が徐々に遠く、小さくなっていく。
「ああ、レジィ。ごめん、ごめんよ。」
「まぁ、気にすんなって。相棒がいなきゃどっちみちここじゃ生き残れねぇよ。」
レジィは開いている右目でにっこりと笑い、ティミーの手を取った。そして、レジィがティミーの周辺に散らばった物資を集める。ティミーも同じく物資を拾い上げてカバンに詰めていく。求光灯用燃料や手榴弾、自動小銃の弾倉、救急手当用ネイドなど原生生物を討伐するために必要な物資を確認し、再度カバンを背負った。
一息ついて、ティミーは走ってきた道を振り返る。見つめる先は暗く、求光灯の光が無ければ足元も見えない。その時、何かに気づく。
「あれ?シャルとショーンはどこに…」
「何言ってんだティミー。」
レジィは後ろを振り返り、照準器を目元から少し離して、暗闇に向かって構える。レジィの腰に掛けた求光灯の光がゆらゆらと少年たちの辺りを照らす。光沢のある黒い光がうごめくように反射した。
「さっきの戦いで死んだだろ?」
ガサガサと後方から何かが這い上がってくる音が聞こえる。
細長い胴体から伸びた8本脚。その一本一本に鋭い鉤爪が付いている。子供の頭くらいある大きな2つの目は二人を捉えている。全身は青みがかった黒い艶のある色を纏う怪物。
制御された動きで前方から後方へ、細長い脚が代わるがわる動き続け、その巨体をものともしないような素早く軽やかな動きで獲物に襲い掛からんとする。
これが原生生物と呼ばれる、この星の生物である。
「レジィ!来てるよ!!」
レジィは自動小銃の引き金に指を掛け、原生生物の胴体部分を狙い撃ちする。引き金を引くたびに1発、2発とセミオートで弾丸を発射していく。飛び掛かってくる原生生物の内、先頭にいた2匹の前脚を弾丸が貫いた。すかさず細長い胴体の中心を打ち抜き、原生生物の動きを止める。そして頭を3度撃ち抜き完全に息の根を止める。
そのすぐ後ろから、レジィに向かって原生生物が飛び込んできた。後方にいたティミーが素早く銃口を向け、空中で胴体を打ち抜いて地面へ落とす。原生生物が地面に激突した瞬間、レジィが頭を撃ち抜く。
「当たって良かったよぉ!」
「助かったぜ。ティミー!」
しかし、ガサガサと這い上がってくる音は鳴り止まない。後方からもお構いなしに原生生物が突撃を繰り返している。
「このまま上まで行くぞ!」
「分かった!」
レジィとティミーは後方から襲い掛かってくる原生生物を退けつつ、らせん状の道を登っていく。
襲い掛かってくる原生生物を撃つ度に、動けなくなった原生生物が道の上に溜まっていく。原生生物たちが障害を無理やりにでも乗り越えて進もうとするほど、徐々に道が原生生物で埋まっていった。
レジィは何かを思いついたのか、ティミーに援護を求めた。レジィはティミーのカバンから何かを取り出す。その間、ティミーは死骸を乗り越えようとしてくる原生生物を自動小銃で迎撃するが、何匹かの原生生物の脚を撃ち抜いた程度で、動きを完全に止めることはできなかった。動きは鈍くなったが、原生生物は動かなくなった脚を引きずりながら進もうとしている。
「ナイス!ティミー!」
足止めした瞬間を狙ってレジィが手榴弾を投げた。原生生物の目の前で、強烈な爆発が起きた。その衝撃で2匹の原生生物が吹き飛ばされ、原生生物の破片と青紫色の体液が四方八方へ飛び散る。それと同時に足場が崩れ、原生生物が下層へ落下していった。
「レジィ…凄いね!みんな落ちていったよ!」
崩れ落ちなかった足場に残った原生生物たちが、はぐれ者たちを2つの大きな目で見つめている。初め何匹かは勢いをつけてこっちに飛び込もうとしていたが、2匹が落ちて、1匹がレジィに撃ち落された。一回り大きな黒い原生生物が触角を動かしながら泣き声のようなものを発すると、原生生物たちが一斉に振り返った。
「まだだ!!」
その時、レジィは戻ろうとするインベーダーの先頭に目掛けて、大きな袋を投げ込んだ。勢いよく地面に激突した瞬間、バシャリと水がはじける音がした。求光灯用燃料だ。
「虫肉パーティだぜ!」
直後袋の中から安全ピンが抜かれた手榴弾が転がり落ち、爆ぜた。
轟音と共に炎に包まれた爆風が、原生生物たちの行く手を阻んだ。退路を断たれた原生生物は、壁に鉤爪を突き立て、上へ登ろうとしている。
「おいティミー!ボーナスタイムだ!撃ちまくれよ!!」
「やっぱり凄いよ。レジィ!!」
ティミーとレジィは、壁に張り付いた原生生物に向かって一心不乱に弾を撃ち続ける。脚先や胴体、頭に一発でもあたるたびに原生生物が下へと落下していく。
「7、8、9―」
「1、2、3匹目!僕でも、こんなに戦えるんだ!!」
一匹ずつ、原生生物が下へ落下していき、最後に大きな黒い原生生物が残った。
一回り大きな鉤爪を壁へ深く突き刺し、ゆっくりだが一歩ずつ二人に近づいてくる。
「ティミー!前脚を狙え!!」
「分かった!!」
黒い原生生物の前脚を狙ってティミーとレジィが、自動小銃を放つ。原生生物の前脚に命中するとカキンと甲高い音が響くが、衝撃で壁につきたてられた鉤爪が弾けた。
「次!後ろ脚!!」
隙を逃さず、ティミーとレジィは後ろ脚に狙いを定め、自動小銃を撃ちまくる。前脚と同じように致命傷にはなっていないが、着弾の衝撃で鉤爪の踏ん張りが段々と効かなくなっているのが見て取れる。
「よし、ティミー!!胴体だ!!」
ティミーが原生生物の胴体を撃ちまくる。弾が弾かれる音が何度も聞こえるが、ティミーの弾丸が原生生物の身体を揺らす。レジィはその動きを見切り、最も負荷がかかる脚を瞬時に判断し、前後左右交互に撃ち続ける。次第に、原生生物の身体が浮き上がってきた。ティミーとレジィの攻撃が重なった瞬間、バコンと壁から鉤爪が外れ、大きくひっくり返る。しかし、原生生物はそんな状況でも片脚一本でぶら下がって耐え残っており、大きな二つの目は二人を捉え続けていた。
「ティミー、最後だ!!」
「おちろおおおぉぉ!!」
ティミーとレジィの集中砲火が原生生物の左後ろ脚を襲う。
瞬間、着弾の反動で鉤爪が壁から外れ、真っ逆さまの状態で黒い原生生物が落下していった。
体中に浴びた原生生物の体液を拭いながら、その様子を眺めるティミーとレジィ。
「…ひとまず安全だな。下層へ行った奴らのとこまで落ちるのかな?」
「はぁはぁ、どうだろう。分からないけど、この高さなら何匹かは死んでると思うよ。」
「だよな!っていうか、こういうの時って数えてもいいんだっけ?」
「分からないよ。僕は生き残るので必死で数えてなかったけど、あんなにたくさんいたんだし、10くらい増えててもいいんじゃないの?」
「いや、もしかしたら100くらい増えてるかも!?」
「はは。かもね。ただ―」
ティミーは安堵の表情と何か気になるような眉をひそめる顔をした。レジィは気にしない様子で自動小銃の残弾数と求光灯に入っている燃料の確認を行う。
「さっきの黒い原生生物。今まで見たことなかったんだったんだけど、一体なんだったんだろう?」
「さぁな。たくさんの機動隊を食って成長したとかか?」
爆破の衝撃で不具合が生じたのか、レジィの腰に付けていた求光灯の光が不安定に光を放つ。求光灯を手に持ち、何度かバンバンと叩くレジィ。ボフゥという音と共に、求光灯が再び光った。
「よし、これで先へ進めるな。」
「うーん。そうなのかな。」
「そうだぜ、きっと。ともかく今日も生き残ったんだ。シャルとショーンの分も生き残って、一緒に遊撃隊になろうぜ!ティミー!」
「…そう、だね。うん。僕も頑張るよ!レジィ」
二人は再び、並んでらせん状の道を登っていった。