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まおうのにっき  作者: 月狂 四郎
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ゆけベヒモス

 あっという間に時間は過ぎて、いつかに取り逃がした勇者が魔王討伐を謳いだしたそうです。


 オーマイファック……あいつはきっと父親を殺されたことを怨んでいるに違いありません。それだったらお前が素直に殺されていれば良かったのに。


 しかしこれは由々しき事態です。勇者とは死んでも何度も生き返る恐怖の存在。だからこそ人々は勇者たちが家に不法侵入しようが、タンスを開けて金品をくすねようが黙っているのです。ほしがりません、勝つまでは。それが人間たちの標語だと聞いています。


 状況は絶望的ですが、私も魔族たちの命運を背負っている以上、何もしないというわけにはいきません。


 あいつらは怪談のメリーさんみたいに、どんどん強くなって近付いてきます。そうして気付けば私の後ろにいるのです。趣味の悪い冗談としか言いようがありません。


 とはいえ、ただ殺されるのを待つのも癪というものです。私はなにも死刑囚ではありません。


 相手を攻撃する時は手を緩めてはいけない。闘いの常道です。


 私は勇者たちのもとへと刺客を送ることにしました。


 ベヒモス――カバに似た、特大の凶獣。どこの世界でも終盤に現れては勇者たちを瀕死に追いやる恐怖の魔物。


 序盤に送るのはあまりに大人気ないのではないかと言われるかもしれませんが、私はベヒモスを勇者討伐の刺客として仕向けることにしました。


 闘いに容赦など必要ありません。手ぬるい相手を序盤にぶつけた先代たちは、かえって勇者に自信をつけさせて自らの生命を危機にさらしてきました。はっきり言って愚かです。同じ轍を踏むほど私は愚かではありません。


 さあ、ゆけ――。


 私はベヒモスを勇者たちのところへとけしかけました。


 ベヒモスはそれほど頭が良くないので、犬のようにハッハハッハと息を弾ませ、そのまま遠くへと走り去って行きました。


 奴が楽しそうだったところに一抹の不安がありますが、まあベヒモスならやってくれることでしょう。今のあいつらにベヒモスを倒す力はありません。言うなれば無理ゲーです。


 私が卑怯だと思いますか?


 ですが、思い出して下さい。


 世の中にはミニマム級とヘビー級よりもさらに不平等な闘いがいくらでもあるではないですか。大手ゼネコンが町の工務店をひねり潰すのを見て、人はそれを卑怯だと言うでしょうか?


 不平等こそ世の条理。理不尽なこんな世の中だからポイズン。そう、それこそ私がこの世界に存在するゆえんです。


 さあ、ベヒモスよ、お行きなさい。


 まだ力の付いていない勇者たちを、転生の気力すら失うほどに喰いちぎってやりなさい。

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