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まおうのにっき  作者: 月狂 四郎
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無駄に重い十字架と酒と女と酒(2回目)

 勇者にうまく撒かれてからしばらく時間が経ちました。


 私たち魔族と奴らの時間は流れ方が違うようで、こちらが酒宴を開き、享楽に耽っている間に勇者と呼ばれる恐怖の存在がすくすくと育っていきます。まるでホラー映画のようです。


 勇者を取り逃がした私は、いくらかヤケクソになっていました。


 ああいう奴らは幼少期に殺し損ねると、神のご加護とかを受けて無駄に生き延びます。どうしてか私たち魔族に彼は見つけられず、手を出そうとすれば何らかの邪魔が入ります。それこそ神でも介在しているのではないかというほどに。


 ですから、私は無駄な努力がしません。これからどう頑張ろうと、あいつは生き延び、青年になってからひょっこりと顔を出すに決まっているのです。


 腹が立ちます。呑まないとやっていられません。


 嗚呼、どうしてこの世界は不平等にできているのでしょうか?


 私は部下に命じて、ありったけのご馳走と酒、そして若い女たちを用意させました。


 どうせ無為に時間を過ごすくらいなら、明日に死んでも後悔が無いほどに今だけを楽しんだらいいのです。


 大体がおかしいのです。


 私は好きで魔王をやっているのではありません。


 生まれたら、たまたま魔王という存在性を得ていたに過ぎません。それ以上の理由がないというのに、魔族の命運すべてが私に懸かっているというのは不条理であるばかりか荷が重すぎます。


 世界の責任を負っている人は限られています。ですが、私はその重荷を背負いたいなどと言ったことは一度として無いのです。


 辞められるのであれば明日にでも辞めたい。ですがそうはいかない。


 私が倒れれば皆が路頭に迷い、明日はどうやって生きていこうと怯える日々を過ごすのです。私はそれを見て「どうでもいい」と言えるほど合理的に物事を考える生き物にはなれませんでした。


 嗚呼、魔王だって十字架を背負っているのです。


 魔王とは過去の歴史で私たちに勝った者が付けた蔑称に過ぎません。私たちには生きる権利があり、人生を謳歌する権利がある。違いますか。


 ですがそれも人間たちの価値観にそぐわなければ排斥されるだけです。


 見てみなさい。犬も猫も、かわいいというだけの理由で私たちよりも愛され、大切にされているではありませんか。


 私たちはただ見た目がおぞましいというだけの理由で、畏怖されるばかりか殺されることすらあるのです。これほど多様性が重視されている時代にも関わらず。だからいっそのことお前たちを殺してやろうと思って何がいけないのですか。


 ……嗚呼、いけません。また見えない敵と闘ってしまいました。


 私には今この瞬間を最大限に楽しむというミッションがあります。それをふいにするわけにはいきません。


 とりあえずは配下が用意してくれた酒と女に溺れようかと思います。酒だろうが女だろうが、それがあるから溺れることができるのです。

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