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世にも奇妙なペンギン協定②

「……カケルさん? もう2時ですよ? 馬鹿なこと言ってないで、さっさと寝ましょう」


 肇は、柚希からの突然の申し出に、極めて冷静に対処する。ほとんど眠りに落ちそうであった肇からすれば、この対処は決して申し出を断ったというわけではなかった。そもそも申し出自体を本気で捉えていなかったのである。


「ソラさん、私は本気なんです! もう一度言いますから、今度はちゃんと聞いてください! 私とタッグを組みませんか?」


「……プロレスか何かですか?」


「違います! 誰がこんな時間に、急にプロレスのタッグを組もうと誘いますか! あ、いや、もしかしたらいるかも知れないですよ? 知らないけど。そうじゃなくて! ネット小説家として、私とタッグを組みませんか?」


「ちょっと良く意味がわからないです。そんな作曲家と作詞家じゃあるまいし、小説家同士がタッグを組むなんて聞いたことないですよ? これがちょっとしたコラボだったら、やってる人いるから分かりますけどね」


「そこが重要なんです!」


「へ?」


「だから! そこが重要なんです!」


 柚希の声により熱量がこもる。まるで熱を帯びたレーザーを照射されているような、肇はそういった感覚に陥る。


「この世にはたくさんの歌がありますよね? それらは、もちろん一人の方が作詞作曲を手掛けてる場合もありますが、多くは作詞と作曲は別々の方が手掛けています。事実、世の中でヒットした楽曲の多くは、作詞者と作曲者は別々である場合が多いです。だったら! 小説だって二人で一つの作品を作ってもいいじゃないですか!」


「うーん、まぁたしかに、短編集なんかを除いて、二人の人が一つの作品を作る形態ってあんまり見ないなぁ」


「もし私たちが一つの作品を作って、それが万が一ベストセラーにでもなったら、どうですか?」


「ま、まぁ……、珍しい例ではありますよね。でも、そんなの出来っこないですよ。過去にもあまり例はないんですし」


「頭が固いですねソラさんは! だから! そこが重要だって、さっきも言ったでしょう?」


「へ?」


「過去にあまり例を見ないのをやるからいいんです! 誰もやらないからいいんです! これってチャンスだと思いませんか?」


「でも、誰もやらないってことは、それはあえてやってないとも考えられませんか? 何でもそうでしょ? 誰もやってない、やりたがらないことを最初にやるのはリスクが高いって」


「リスクはたしかに高いかもしれません。でも、成功する可能性もあるじゃないですか? じゃあ最初の成功例になりましょうよ! ファーストペンギンになるんです!」


「ファーストペンギンになる、か……」


 肇の身体中を、衝撃がゆっくりと駆け巡った。その衝撃は血液と随伴して血管の中をひた走り、髪の毛の先から足の指の先まで確実に行き渡る。そして、身体が痺れるような、そんな感覚に陥った。


「ね! 面白そうでしょう?」


「うん、たしかに面白そう。やって見る価値はあるかな……?」


「じ、じゃあ正式に協定を結んでいただけますか……?」


「でもさ、カケルさん」


 ここで、肇は極めて重要なことに気付く。先程まで衝撃がひた走っていた身体が嘘だったかのように、それ以前の気怠い感覚が戻ってくる。そして、あくまでも冷静さを保ちながら柚希に語りかけた。


「そもそも僕たちは、売れる気配すら全く無い、地下ネット小説家同士ですよね? そんな二人がタッグを組んだところで、人気の出る小説なんて生み出せますかね? 話題にすらならない気が……」


「それなら大丈夫でしょ」


「な、なんでそんなに余裕なんですか……?」


 何を言ってるんですか? と言わんばかりの柚希の余裕ぶりに、肇はひどく戸惑った。無計画ゆえの余裕なのか、それとも、なにか考えがあっての余裕なのか。今の肇にはそれを推測することすら出来ず、ただ柚希の返答を待つことしか出来ないことに惨めさを覚えた。


「ソラさん、言ってくれましたよね? 私から発想力や物語の構成力なんかを教わりたいって。そして、逆に私はソラさんにこう言いました。日本語の使い方や文章の作り方に関してソラさんに色々とアドバイスを頂きたいと。それらは今の私たちにとって、短所を補い合う関係なんです。だったら、それらを掛け合せれば良いじゃないですか!」


「ど、どういうことです??」


「鈍いなぁ、ソラさんは! 要は、ソラさんの日本語力と文章構成力、私の発想力や物語の構成力を掛け合わせて作品を作るんです! 私が考えて、ソラさんが書く! シンプルな作戦ですけど、最強の作戦です!」


「なるほど、それはたしかに面白そうだな……。試してみる価値ありだな。よし、正式に協定を結びましょう!」


「ダッグ成立ですね! ありがとうございます! これから私たち、凄いことになりそうですね!」


 柚希の自信はどこから来ているのかと、その疑問は最後まで拭えることはなかったが、ほとんど誰もやってのけた人がいないことに挑戦するのは刺激的である。肇は柚希の誘いに乗ることにした。協定が成立した瞬間であり、同時に奇妙なタッグが誕生した瞬間でもあった。


「なってやろうじゃないの。そのファーストペンギンとやらに……!」

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