表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/100

外伝2−4.子どもを見せてください?

 切り裂きジャックと命名されて、もう2ヶ月。今のところ捕まっていない。私は庭でのんびりとアリスの相手をしていた。大公家は城というより、屋敷という表現が近い。大きな平家で、イメージは平安京とかの公家屋敷。廊下は石造りだし、全体に洋風だけどね。


 庭に飾られた聖獣の像に寄りかかり、クッションと毛布の間で欠伸をした。アランのいる執務室が見える場所で、今日は珍しく誰もいない。エルは仕事で呼び出され、アゼスとリディは近隣国との会議があるんですって。


「まま、これ」


 何かを捕まえたみたい。左右に揺れる不安定な状態のアリスを、侍女達がサポートする。この辺はお任せしている。転んでも経験だし、ちゃんと歩けたらそれも大切な体験だから。


「何? 見せて」


 ぱっと手を広げたアリスは、首を傾げた。どうやら捕まえたものが逃げたみたい。半泣きになって、小さな虫の説明を始めた。蟻かしら? 知っている生き物で近いのは、蟻のような気がする。


「泣かないで。また見つけたら見せてちょうだい」


 こくんと頷き、アリスはまた虫探しに歩き出す。揺れる幼児の歩き方は、どうやってバランスを取っているのか。意外と転ばないものだ。見送った私は、再び聖獣の像に寄りかかった。最近はお腹が苦しくて、やや反り返っている方が楽なのよ。体重を預けた像の上に、ふっと影がかかった。


「っ!」


 叫ぼうとした私の口を、黒い手が塞ぐ。甘い匂いがする。くらりと倒れかけた私を、黒い腕が抱えて走り出した。揺られる腹へ手を当てる。だめよ、揺らしたら赤ちゃんが……。







 目を覚ました私は、大切なお腹をまず確認した。両手で包むように撫でて、傷や痛みがないことにほっとする。


「良かった」


「お願いがあります」


 呟いた瞬間、死角になる頭の上で声が聞こえた。寝転がった状態だった私は首を動かし、座っている人影を見つける。黒い手足、白い獣耳、でも顔立ちは人だった。ファンタジーで見かける、獣人かしら。


「あなたのお腹の中の子を、見せてくれませんか」


「……どうして?」


 この子が切り裂きジャック? 警備が厳重な大公家の屋敷に入り込んで、私の子を見たいなんて。すごく理由が気になった。


「探しているんです」


 ほっそりした少年のような子は、ぽつりぽつりと語り出した。聞けば、今までの妊婦さんにも事情を話して協力してもらったらしい。途中から怪談のように伝わったが、本人了承の上での確認で安全も確保していたとか。


 当事者の家族から話が外へ漏れたのかも知れない。他の妊婦さんが協力した経緯も気になった。普通は我が子優先だと思うの。8人もの妊婦さんが協力したなら、よほど安全だったのかしら。


「誰を探しているの?」


「僕の片割れです。双子として生まれるはずだった、僕の半分です」


 話された内容は、とても興味深いものだった。なるほど、協力しても大丈夫な気がしてきたわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ