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外伝2−3.切り裂きジャック出現?

 この世界に来て50年もすると、ゆっくりするという言葉の意味が実感できた。旅行に来て、あくせくと観光地や土産物屋を見て回るんじゃなくて、海岸でのんびり昼寝をする贅沢に似てるわ。


 日本にいた頃は平日が会社で拘束されるから、休みの日は早起きして目一杯動き回った。この世界に来たばかりの頃は、そんな感じだったかも。あちこち行きたかったから、ドラゴンにも会いに行ったし。隣の大陸だって遊びに行った。


 皆を振り回して騒いで、でもすぐにやることがなくなっちゃったのよ。夜会に参加しても、隣国へ旅行しても。何度も同じことをしていると、特別感が薄れて日常になっていく。そんな日を過ごすうちに、平凡で何もなく終わる一日の贅沢さに気づいた。


 今はアランが仕事をこなす間に、アリスとお茶会をするのが日課。たまにエルが顔を出して、アゼスやリディも来てくれる。これが最高の日常だと思うわ。誰も欠けずに大きなトラブルもない。もちろん健康なことは大前提よ。


「今回は悪阻が短いといいわね」


 こういう部分も長くなっちゃうから、大変だけどね。3年も悪阻があると、逆に慣れちゃうくらい。今回はアリスの時より体調が良かった。


「うーん、断言できないけど軽い気がするわ。ムカムカするけど、吐くほどじゃないし」


 お腹が張ってるのに、さほど苦しくなかった。アリスとお茶会が出来るほどよ。そう笑ったら、リディが笑顔で頷く。後ろに尻尾が出てるわよ、2本ほど……と思ったら、アリスを遊ばせてる。器用だわ。


 昨日はテントの下で眠ったら、そのまま夜まで眠り続けてしまった。アゼスとリディも泊まっていったし、エルも熊姿でアリスと眠ったとか。大きくて温かい熊は、きっと寝心地よかったでしょう。


 あと数年、こうしてお腹に抱いて育てる。妊娠期間が長いせいか、愛情はより深まる気がした。アリスが産まれた時なんて感動しすぎて、過呼吸になったの。懐かしいわよね。


「あの時はびっくりしたわ」


 リディが笑いながら果物を差し出す。今日も美味しく、美しい姿の果物を摘んだ。すごく贅沢なことよね。メロンに似た瓜科の果物をパクリ。外の皮に近い部分はオレンジ色で、中央が緑なのよ。赤玉と緑のメロンが混じったような品種だった。


「最近、物騒な事件が起きてるのよ。聞いてる?」


 リディが迷いながら切り出した話は、初耳だった。もしかしたらアランは知っていて、私の耳に入れなかったのかも知れない。妊娠中の私が不安になると思ったのかしら。


「妊婦を狙った、切り裂き魔?」


「ええ。お腹が大きくなった女性ばかり狙われてるわ。すでに被害者が8人もいるのだけれど、不思議なのよ。切り裂いても赤子は無事、その後母親の胎も縫って治癒されていたわ」


「……何が目的だか分からないんだよね」


 不気味で怖い。だから人の口にのぼり、あちこちで噂されているとか。切り裂きジャックみたい。あれは治癒なんてしてくれないし、殺しちゃってたけど。思い浮かべた話に、アゼスがぽんと手を叩く。


「犯人が捕まるまで、切り裂きジャックと命名しよう」


「ふふっ、安易なんだから」


 妊婦切り裂き犯と、どっちがマシかしらね。

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