外伝1−6.この世界で得た宝物
大きな赤い宝石を目の前に差し出すと、御礼のように頭を下げてくれた。そっと鼻先に押し当てたら、口の中にころん。四つ足で歩いてるワニが、手で掴んで歩くのは無理よね。見守ると、そのまま口の中で転がしている。
「ねえ、あれって食べ物なの?」
「魔力の塊ゆえ、食い物だな」
ドラゴンの食糧は、魔力だった。発生する魔物を食べる理由が魔力の吸収だから。肉は副産物のようで、食べなくても平気らしい。今回のお土産は、アゼスが作った魔力の塊で、別に宝石じゃなかった。
「いいえ、一応宝石に分類されますよ。魔力石と呼ばれています。ご安心くださいね、婚約の結納はもっと大きな魔力石にします」
にこにこと爆弾発言された。アランって、こういう場面で張り合うのよね。ふふっと笑ったら、アゼスがさらに対抗してくる。
「我ももっと大きな魔力石を作るとしよう。どれ、アランが及ばぬほどの大きさに……」
「やめてよ、帰りにあなたを引きずって帰るの、私になっちゃうわ」
リディが苦笑いして仲裁に入る。さすがにあまり大きな魔力石を作ると、疲れて動けなくなるんだって。ここは聖女である私の出番ね!
「さすがパパ、アゼスが立派な魔法石を作れるのは知ってるわ」
照れたアゼスが頬を赤く染める。ゴツい外見に似合わぬ可愛いところがあるのよね。
「アラン、結納が魔力石ならアクセサリーに使える大きさがいいわ。せっかく大粒を貰っても重くて身につけられないから。このくらいのをたくさん頂戴」
親指の爪を示して、このサイズまでと言い聞かせる。そうじゃないと、二人とも張り合って倒れるまで魔力石を作る気がするの。内心を読まれているのを承知で、あざとく小首を傾げて答えを待った。
「よかろう、我が娘の願いだからな」
「仕方ありません。サラの望まぬ争いは避けるのが、婚約者の心得です」
二人とも納得してくれてよかった。にこにこしている間に、ドラゴンの口に入った魔力石は半分になっていた。残りを大切そうに埋め始める。
「あれって……」
もらった骨を埋める犬に似てるわ。大事な餌を取られないよう、埋めて……忘れるのよね。
「安心して。ドラゴンは魔力に関して鼻が利くから」
エルの話で、余計に犬の認識が染みついた。見た目はワニだけど、中身は犬。忠犬ならそれもいいかも。手を伸ばして鼻先を撫でたら、嬉しそうに目を細めた。ごつごつしたワニ皮は鱗じゃないけど、この世界ではこの子がドラゴン。
「ねえ、ラドンじゃないドラゴンも会いたいわ」
頷いて同意してくれる4人の予定を合わせて、また別のドラゴン巡りに行く約束をした。ラドンも含めて、この世界のあれこれを堪能し尽くさなきゃ。異世界にきた意味が薄れちゃうよね。何より、皆と一緒の時間が嬉しいから。
帰りもアゼスの背に乗って、景色を楽しみながら湖に立ち寄った。この世界に来てよかった。そう心で呟いたら、4人は口々に同じ言葉をくれる。私と出会えてよかった、嘘偽りない聖獣達の心が私の宝物になった。




