外伝1-4.羽も体も違うけどドラゴンでした
中華の器に描いてある神龍系ではないと思ってた。だから私が想像したのは、恐竜にコウモリの羽がついたような形だった。後ろ足が発達してて、お座りすると猫や兎みたいになる感じで……コウモリの羽の天辺は爪が付いてるイメージよ。
なのに、この不細工な生き物は何だろう。確かに大きい。サイズは新幹線くらいかな。私を一飲み出来る大きさだった。表面がつやつやした巨大なワニが一番近いかも。顔も似てるし。でも背中に羽がついていた。コウモリ系じゃなくて……うーん、昆虫系。トンボの翅みたいなのが4枚もある。
揚力が足りない気がするけど、アゼスも魔力で飛ぶと言ってたから関係ないのかな。
「ぷっ!」
エルが吹き出したのを皮切りに、全員が笑い出した。きょとんとしたのは私とワニならぬドラゴン。この世界で、ドラゴンが最強生物じゃないのは知ってる。顔を見合わせてお互いに首を傾げた。
「大丈夫、何でもないから」
そう釈明するエルだけど、明らかにドラゴンが視界に入ると笑うよね。もしかして私の表現がおかしかったの? そんなに笑うことないのに。ぷっと唇を尖らせたら、アランに抱き締められた。
「サラは悪くありません。後でエルを〆ておきますから」
「許す」
アランだからじゃないよ? 最初に私を慰めてくれたから。まだ事情の飲み込めないドラゴンは、蚊帳の外だった。この表現は、日本人じゃないと分からないでしょ。なぜか得意げに胸を反らしてしまう。
「私はサラの聡明なところも大好きです」
幼女相手に口説きまくるアランに、気分が上昇する。忘れられたドラゴンが長い尻尾をどんと揺らした。本当にワニだよね。鱗の感じもそっくり。
「このドラゴンさんに名前はあるの?」
「ええ。ドラゴンは色で名前を呼び分けられるほど、生存数が限られています」
説明されたドラゴンの数は4匹だった。目の前にいる黒いドラゴンのラドン、海に住む白いドラゴン、森の中で苔を生やした青いドラゴン、眠り続ける赤ドラゴンで終わり。炎なら赤のイメージだけど、なぜか火口で泳いでたのは黒だった。
派手な色が多いのは、自然に反した生き物だからみたい。繁殖するのに数が少ないと思ったら、自分の分身を卵で産んで死ぬらしい。だから数は増えないし減らない。
「卵を奪う奴がいたり、割って殺したりする悪い人はいないの?」
「問題ないわ。割れた瞬間産まれちゃうし、奪われても割れるのは聖獣くらいだもの」
リディの説明によれば、ドラゴンの卵を割るのは聖獣の仕事のひとつだとか。それ以外の誰かが割ることは出来なくて、心配ないんですって。一応強い生物だから、その辺は女神様のお考えかな?
「新しい聖女のサラちゃんよ。しっかり覚えて敬ってね」
「ついでに仲間に連絡しておけ、ラドン」
リディとアゼスの言葉に、黒ドラゴンは素直に頷いた。この子の卵を割ったのはアゼスだけど、ヒビを入れたのがリディ。卵の上で夫婦喧嘩をして割ったんじゃないかしら。ふとそんな気がして笑ったら、意味ありげにアランが微笑んだ。まさか、本当にそんな理由?