83.今晩は一緒に寝ようね
「こんなに幸せでいいのかなぁ」
「幸せになってやると仰ったのは、あなたですよ。サラ」
私の銀髪を撫でながら、アランが優しい目を向ける。この世界に来て、どのくらい経ったんだろう。最初は数えていた気もするけど、もう忘れちゃった。5歳に近い幼女姿で召喚されて、リディとアランに拾われたの。もう昔のことだよね。
「そうだっけ?」
「ええ」
アランが言うなら間違い無いんだろうな。ぼんやりとそう思いながら、膝枕してくれる彼の温かさに目を閉じた。すごく時間をかけてゆっくり、ゆっくり成長する。そんな時間の流れや体がもどかしい時期もあった。今になればいい思い出よね。
「サラ、エルが来ていますよ」
「ほんと? じゃあリディやアゼスは?」
「明日ですね」
明日か。そう思ったこの声も筒抜けだから、もしかしたら今夜来ちゃうかも。
「あの二人は過保護ですから」
「アランだって、人のこと言えないわよ」
ごろんと寝返りを打って笑う。エルが来たなら顔を見たい。起き上がって、ベッドを降りた。アランは慣れた様子で私に手を差し伸べる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
かつては頭の上まで手を伸ばさないと繋げなかったけど、今は彼の肩の位置に私の頭が届く。私だけ背伸びしてもキスは届かないけど、アランが少し屈んでくれたら重なる距離になった。
巨大なドラゴンに会いに行ったり、気候変動で女神様に助けを求めたり。思い返すと色々なことがあったな。たくさんのことがあり過ぎて、思い出がスペクタル映画みたいだけど。
「まだまだ一緒に多くの時間を過ごすのに、まるで明日人生が終わるみたいな感想ですね」
くすくすと笑うアランに腕を絡めて、私は甘えるように体重をかけた。平然とした顔で私を抱き上げちゃう彼は、昔も今も甘い言葉をくれる。
「愛していますよ、サラ」
「私も大好き」
愛してるはまだ恥ずかしいから、明日の結婚式で解禁にしよう。それまであと1日だけ封印ね。額にキスをもらった私を抱っこして、アランは足早に廊下を進む。彼の心が読めなくても分かるわ。
エルに自慢したいんでしょ? こうやって抱っこするのは、いつの間にかアランの特権になっちゃったから。今でも獣姿なら抱っこされたり背中に乗ったりもする。だけど、ヤキモチ焼きのアランのために、人の姿で抱っこされるのは禁止にしたの。
「あ! サラ、と……アラン」
嫌そうにアランの名前を付け加えたエルは、兄として振る舞おうとしてるけど、弟ポジションかな。アランの首に回した手を解いて、降ろしてと合図する。笑顔でスルーしようとしたアランの頬を突いた。
「降ろして」
言葉にされたらアランも無視できない。するりと滑り降りた私は、久しぶりのエルに抱き着いた。ぼふんと熊に戻るあたり、本当に律儀よね。前にエルのまま抱きついたら、そのあと大喧嘩だったもの。
「明日の予定だったけど、アゼスとリディが来るって」
エルが口にした直後、大公城の中庭は騒がしくなった。到着したのね。
「アゼスとリディも来たわ。今晩は皆で一緒に寝ましょう」
「我が婚約者の仰せのままに」
明日の夜はあなたと二人なんだから、今晩は我慢してね……アラン。
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明日で最終話になります。その後外伝を少し追加して終わる予定です。