79.怪獣大戦争みたいね
一言文句言ってやろうと腰に手を当てたところで、彼女の先制攻撃が始まった。というか、口先だけでキャンキャン騒いでるんだけど。
「このデカすぎる化け鳥や化け狐、それに熊まで使役して……はっ、あんた! 幼女の姿してるけど、絶対に魔王でしょ!! 覚悟しなさい、聖女である私が来たからには、タダじゃ済まさないわよ?!」
うん、息継ぎなしで話し切ったのは凄い。感心しちゃった。でも内容がブーメランすぎて、なんというか。この世界で最大の国家であるサルビア聖獣帝国の、皇帝陛下と皇后陛下に向かって「化け鳥」やら「化け狐」は問題発言だと思うの。肩書きを知らないからって許されないんじゃないかな。あと、私も一応皇女殿下なのよね。
遠い目をしちゃう私の横で、アランを踏んだエルが「やっちゃう? 軽く首へし折っちゃう?」と期待の眼差しを向けてくる。軽くてもへし折ったら、人間は元に戻らないからやめてあげて。
「なんとか言いなさいよ、この魔王!」
そこでエルに踏まれて跪いていたアランが立ち上がった。ゆらりと身を起こす彼に駆け寄ろうとした女性が、ばちっと弾かれる。風を操るアランの周囲を、何かが渦巻いていた。
「今、なんと言いましたか? 私の聖女であるサラに対し、暴言は許しません。ましてや彼女は帝国の皇女殿下であり、異世界人であるだけのお前が、不敬を働いていい道理はない」
ややキレ始めてるね。言葉遣いが徐々に崩れてきてる。私は知ってるから良いけど、周囲を見回すと屋敷の使用人が遠巻きにしていた。彼や彼女らは聖獣を知ってるから、異世界人の無礼に慄いてる。死刑どころか、その場で即処刑でもおかしくないもの。
「俺のサラを傷つけるなら死ね」
ぼそっと吐き捨てたと同時に、渦巻いた風が女性に襲いかかった。服、髪、肌、すべてが切り裂かれていく。
「簡単に死ねると思うな、後悔して苦しんで死ね」
二度言った、死ねって二度使った。アランの怒ってる姿をみたら、私の方は冷静になっちゃった。自分より怒ってる人が目の前にいると、すんと冷静になるのよね。
「アラン、怖い」
つんつんと上着の袖を引っ張った私を振り返り、アランはさっと抱きしめた。駆けてきたリディの後ろ足蹴りを交わし、アゼスが投げた石を避ける。っていうか、攻撃対象がアランでも抱っこされてる私が危険でしょ!!
「きゃっ」
目の前を飛んで行った石にびっくりして声を上げれば、アゼスが伏せて反省を示した。そんな皇帝陛下をエルが攻撃してる。ちょっと、落ち着きなさいよ。
「サラを危険に晒す聖獣は許さないよ」
宣言するエルだけど、リディに蹴飛ばされて転がった。臨戦体制の熊と狐に溜め息が漏れる。
「サラ?」
「ごめんなさいね、サラちゃん」
エルとリディの視線が集まったところで、アゼスには許すからと伝えた。ここで大事なのは、聖獣が争うことじゃない。中途半端に切り裂かれて泣いてる異世界人をどうするか、なのよ。あちこち切れてひどい姿だわ、同情はしないけど。
火に油を注がなければ、火傷しないで済んだのよ。今回の場合、目の前の竜巻にダイブしたのと同じね。大人しくしてたら通り過ぎたかも知れないのに。
「えっと……女神様はどうするって言ってたの?」
解決策はきっと女神が持ってると思う。そう尋ねた私達を、やたら眩しい光が包み込んだ。