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75.新しい聖女が現れた?

 その話を聞いたのは、偶然だった。たぶん、皆は隠したかったんだと思う。でも貴族の奥様達が立ち話をしてた声が耳に入って、すごく驚いた。


「新しく聖女様を名乗る方が現れたとか」


「本当に? じゃあ、今の聖女様はどうなさるの」


「聖女様って、同世代に二人はいないわよね」


 心が筒抜けって、こういうとき不便だよね。私が受けたショックがそのまま伝わり、半泣きのエルが駆け寄ってきた。巨大熊姿だけど、もふっと私を包み込む。黒い肉球の手が、私の背中に回された。


「あのスズメども……」


 唸るエルを撫でる。そうじゃないよ、私がいけないの。勝手に盗み聞きしたんだもん。きっと私がいたら、こんな話はしなかった。そう宥めて、一緒に部屋に戻った。私の私室は一階と二階の両方に用意されている。昼間は日向ぼっこして庭に出られるよう、一階で過ごす。夜は警護の関係で二階にあるお部屋で寝ていた。


 エルと入った一階の部屋は、息を切らして駆け付けたアゼスとリディが待っていて、泣きそうな顔で私を抱き締めた。


「あのね。聖女が他に見つかったなら、いいよ」


 そっちへ行って契約してもいいよ。寂しいけど、でも私との契約も続けてくれるなら、全然平気。心はばくばくと煩くて、酸欠みたいにくらくらするけど。平気だからね。


 何度も平気と繰り返す。自分に言い聞かせて、我が侭を言わないように。私以外の誰にも触れさせないで、そんな言葉を飲み込んだ。聞こえてるだろうけど、皆は何も言わない。


 アランは? 今日はこないのかな。お仕事? それとも新しい聖女の……いけない。私はこんなに汚い子じゃダメだから。深呼吸してアランのことを忘れようと努める。


「アランは仕事なの、きっとサラちゃんを心配してるわ」


「そうだぞ。サラ以外に聖女は認めん」


 アゼスは言い切ったけど、そんな意地悪しちゃいけないよ。異世界から呼ばれたなら、一人だもん。その子も不安になってるはず。アゼスだって顔を見たら、その子を気に入るかもしれないのに。見る前に切り捨てたら後悔するから。


 ぽんと頭の上に手を置いて、アゼスは金の瞳を細めた。


「後悔なら、今している。サラの耳に入らぬよう、戒厳令を敷くべきだった。すまん」


 優しいな、自分が悪いフリをして私を許すんだね。悪いこと考えちゃったんだ。もし皆が新しい聖女に夢中で、私を忘れたらどうしようって。そんなの寂しいし、悲しい。きっとみっともなく泣き喚いちゃう。


「私はサラちゃんの味方よ。離れたりしないわ」


「あり、がと」


 鼻の奥がつんとして、目が勝手に潤んでいく。まだ熊姿のまま私を膝に乗せたエルに抱き着き、こっそり毛皮に涙を染み込ませた。楽しくて幸せだった気分が、急に萎んでいくようで……ただただ恐ろしかった。

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