73.添い寝は聖獣姿の協定あり
すごく贅沢な状況だわ。リディの尻尾で昼寝をしていたら、いつの間にか忍び寄ったアランが添い寝していた。九本の狐尻尾のうち、2本を下敷きにして1本を抱っこした状態。その私を後ろから黒豹が抱き締めている。
「あふっ……あったかい」
子狼達は少し離れた場所で丸まっていた。3匹揃って仲がいい。聖獣の上によじ登ったりしないのは、コウやフクが言い聞かせてるのかな。それとも本能的に怖いとか。ぼんやりと考えながら、うとうととまた眠りに誘われていく。
十分すぎるほど眠った私が目覚めたのは、もう夕方だった。子狼達は外を走り回り、コウやフクに戯れついてる。その様子を窓越しに見ながら、後ろに抱き着いたアランの頭を撫でた。
普段は私が撫でられる側だけど、聖獣姿の時はアゼスも含めて皆の頭を撫でるのが私の役割なの。
「そういえば、いつも獣姿で寝るけどどうして?」
この世界に来てすぐの頃は、リディがお胸を押し付けて寝たりしてたけど。1年もしないうちに、私は聖獣姿の彼らとしか寝てない。人姿で寝たと思っても、起きると隣は聖獣姿だし。
「協定があるのよ」
うふふと笑うリディがするりと身を起こした。器用に尻尾を残して人化したリディが、アランを小突いた。それでも離れる気はないようで、鼻に皺を寄せて唸る。
「主にアランへの牽制なんだけど、人の姿で一緒に寝ない協定よ。幼女なのに悪戯されたら困るじゃない」
「そんなことはしませんよ、そこらのケダモノではありませんから」
アランはけろりと否定するけど、何となく理解しちゃった。たぶん、アゼスが暴走したんだと思う。娘は嫁にやらん! とか、言ったんじゃないかな。
私の心が筒抜けのリディが目を逸らした。アランは表情の読めない黒豹姿で、ふんと鼻を鳴らす。遠からず当たったね。
「エルはどうしたの?」
「領地で問題があり、後片付けをしていますよ。今夜は戻れるか分かりませんが、明日の朝は顔を見せますね。サラが不足したと言いながら抱き付くかも知れません」
ああ、ありそう。頷いちゃう。エルは何だろう、お兄ちゃんというか、弟のが近い? 男兄弟がいたらこんな感じだろう、って付き合いになってる。気兼ねなく色々話せて、友人より近い距離だけど恋愛対象じゃないの。
「エルも似たような話してたわね」
苦笑したリディが肯定した。やっぱりそうよね。キスする姿を想像すると、頬や額しか思い浮かばないのよ。双子じゃなくて年子の兄弟なら、一番イメージ合うのかも。
「ところで、今さらな疑問なんだけど」
「遠慮なく尋ねてください」
「私は聖女なんでしょ? この世界で何かするためじゃなく、幸せになるのが役割よね」
「そうです」
「何のために聖女召喚の習慣が残ってるのかなぁ、って」
リディとアランは顔を見合わせ、頷き合った。意見は同じなのかな?
「簡単です。私達聖獣が生きるためですよ」
どこが簡単なのよ。余計に意味が分からなくなったわ。