表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/100

71.名付けセンスは残念な黒歴史

 コウの名前の由来は「幸」を読み替えたもの。漢字という概念がないこの世界で、思い浮かべた文字は書き写されて保存されることになった。なんか、恥ずかしい。私が考えたわけじゃないのに、聖女様の文字と言われて信仰の対象にするのはやめてよ。


「コウの夫と子ども達にも名前が必要ですね」


 アランに促され、同じように漢字で考えることになった。幸福でひとつだから、旦那さんはフク。子ども達はどうしよう。女の子が1匹、男の子が2匹か。


 アンポンタンとかトンチンカンみたいに、語呂のいい名前ないかな。そうしたら忘れないと思うだよね。名付けのセンスはイマイチだと自覚してるけど、この世界の人には意味がわからないだろうし。変わった響きでも、異国から来た聖女の言葉として崇める対象になるから。特に問題ないはず。


「うーん」


 車や新幹線の名称、地名など思い浮かべては首を捻る。そうじゃないんだよね、違うんだ。そう呟きながら考えた。


「花や木の名前はどうかしら」


 言われて気づいたけど、国の名前が植物だった。数代前の聖女様が考えたとか。うん、間違いなく同じ世界だと思うわ。サルビア、ケイトウ、バーベナ、ロベリア……思いつく限りで、すべてお花だね。夏の花っぽいかも。


 違和感なく定着してるなら、私もそれで行こう。灰色の男の子はマツ、黒と灰色が混じった男の子はタケ、黒い女の子はウメ。松竹梅でおめでたい。


「マツとショウ、どっちがいいかな。タケよりチクの方がいい?」


「ショウの方がいいわね」


「チクならタケの方がいいと思う」


 バランス悪いけど、ショウ、タケ、ウメに決まった。農家みたいだけどいいよね。幸福も松竹梅もおめでたい言葉と伝えたら、いろいろと詳細を尋ねられた。知ってる範囲で答えておいたけど、まさかそれも後世に残すとか? 黒歴史になりそうだから、あまり話すのはやめよう。


 子狼の色が全部違ってて助かったわ。これでコウにそっくりの黒狼ばかりなら、どこで見分けたらいいか。


「あ、首輪を用意したのよ」


 思い出したとリディが手を叩き、侍女を呼んで運ばせる。立派な宝石箱から取り出されたのは、可愛らしいリボンだった。緑、青、赤で、子狼の分だけ。


「あれ? コウやフクは付けないの?」


「子狼はいいけど、コウとフクは狩りに出るから目印はまずいわ」


 リディの説明に「そうか」と納得する。鈴つけたら可愛いと思ったけど、外で狩りをするなら致命的だね。それに綺麗な色のリボンは、森の中で目立ちそう。どこかで枝に引っかかっても困るし。


「ショウ、タケ、ウメにリボンをつけてもいい?」


 コウに尋ねたら、ぐるると喉を鳴らす。目を細めた様子から大丈夫そうと判断した。子狼はしばらくお互いのリボンにちょっかいを出していたけど、すぐに慣れて無視してる。平気そうね。ショウが青、タケが緑、ウメは赤のリボンを首に巻いて走り回った。


「名付け、お疲れ様でした。一緒に休憩にしましょうか」


 アランが当然のように私を抱き上げると、周囲からブーイングが上がる。それをさらりと無視するあたり、本当に婚約者の座を狙ってるのかな? と顔を見上げた。


「もちろん、狙わない理由がないですよね」


 第一印象から決めてたら、変態だけどね。付け加えた私に、全員が笑い出した。一緒に笑ったけど、本当だったら笑えないわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ