70.コウも自分なりに考えた結果でした
海外旅行に来た気分を味わいながら、事情を説明してもらった。というのも、聖女の私は聖獣達と心の中で話せる。だから獣姿でも会話が可能だった。ところが、本物の獣である狼との会話は儘ならないのだ。これは女神様の手落ちじゃないかな。
聖獣が獣や人間の頂点なら、その上に立つ私が会話できないのはおかしい。理論を展開したところ、アゼスは「なるほど」と唸った。リディは訳してあげるから問題ないと考えてるし、エルやアランも感心して私を褒めるばかり。
ちなみに説明役と聴取役はアランに兼任してもらった。灰色狼がエルに怯えてて、話が進まないのよ。さっき蹴り飛ばされたせいかしら。
「コウは夫が巣穴を用意していると知らなかったので、安全に産める場所として宮殿の庭を選びました」
「聖獣の宮殿の庭は安全だと思うわ」
他の獣に襲われる心配はないし、子狼が行方不明になる確率も減る。私達の近くにいたら、大きな鳥に子どもを攫われる心配もないし。理解できたので頷いた。
「夫はサプライズのつもりで、コウに話していなかったそうです」
「よくあるすれ違いね」
リディが肩をすくめた。複雑そうな顔をする様子から、アゼスも失敗したことありそう。
「産んだ日は朝から体が重く怠かったので、狩りに出た夫の帰りを待つことなく宮殿に向かったのですね。そこで子ども達を産みました。ところが子狼を置いて出かけられない上、ここに夫を連れて来れないと考えたのでしょう」
初産だから余計かも。産まれる子を心配して、夫を失わないよう考えて。少しの間、里帰りしようしただけ。
コウは言わないけど、ここは聖獣の住む宮殿だから夫が罰せられると考えたんだね。私がいいと言えば、誰も反対しないのに。やっぱり私と会話が出来ていたらよかったのかな。撫でながら、コウに「ごめんね、気づかなかった」と謝る。
くーんと鼻を鳴らして私の顔を舐めるコウが、気にしないでと言った気がした。
「皆でここに住んだらいいよね」
私の提案は、ほぼ命令に近い。理解してるけど、そう言葉にして確認を取る。
「いいんじゃない? 僕は気にしないよ」
「サラが望むなら、叶えるのが私の幸せですから。もしアゼスが何か言うなら、私の国で暮らしても構いません」
軽いエルに続いたアランは、気持ちが重めだった。この宮殿に住めなければ、私ごと狼を連れて国に帰ると脅してるよね? 遠回しだけど、アランの場合は脅迫だと思う。しかも有言実行したそうな顔で微笑んでいた。
「サラを連れ去ること、相成らぬ! この敷地で暮らすことを許可する」
「そうよ。ここが一番快適で安全なんだから。気候や天災の情報を集めて作った帝国だもの」
アゼスの許可が出たし、リディが言うには暮らしやすい環境みたい。だから無理にアランも私の移住を進言しないのかな。そういえば、アランの国は寒いって聞いた。凍りつく季節は大変そうだけど、雪遊びは楽しそうだな。子狼達と走り回ってみたい。
うっかりそんな想像をしたので、今年の冬は雪遊びに行くことが決まった。転移があるから、遊んだら即日帰るの。風邪ひくと苦労するのは皆だから、私は大人しく頷いた。