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50.甘い処罰など許しません

 リディを護衛代わりに残し、3人と1匹は屋敷で合流した。黒狼は礼儀正しく、皇帝アゼスに平伏する。獣特有の本能は、強者と弱者を正確に分類していた。この点は愚かな人間と違う。


「ふむ、どこぞの森の主の子であったか。苦労した分、今後は楽な余生を送るがよい」


「まだそんな年老いてないと思うけど」


 アゼスの大仰な口ぶりを、遠慮なくエルが混ぜっ返した。気にした様子を見せないアゼスへ、アランがリュックを見せる。それだけで話は通じた。もうケイトウ・ヒユ聖王国に生き残る価値はない。


 聖女召喚を悪用し、聖獣達を支配しようとした。己の努力を怠り、他者の能力を奪って楽をしようなど許される訳がない。ましてや罪のないサラを犠牲にしようとした。もし彼女が成人女性として召喚されたら、あの美しさにどのような扱いをされたか。想像するも悍ましいと3人は共通の思いを抱いた。


 幼女で力がないように見えた。それこそが、女神の恩恵なのだろう。外に捨てられるよう、無力さを装った。監禁されて泣くサラを見なくて済んだだけで、彼らの気持ちは救われる。その分、傍若(ぼうじゃく)無人(ぶじん)な振る舞いをした王族への怒りは膨らんだ。


 夜が更けるのを待つ必要はない。見られたとしても、3人の聖獣を止められる者はいない。あの城に、王族を守ろうとする兵士や騎士もいなかった。顔を見合わせ、にやりと笑う。


「では、楽しむとしよう」


「お膳立てした僕は一番手でいいよね?」


「甘い処罰だけはしないでください」


 黒狼の頭を撫でながら、アランがうっそりと笑った。その表情は黒い感情が渦巻いている。その点で、エルやアゼスも大差なかった。


 置いてきた家族を思い、そっと涙を拭いたサラ。まさか異世界に来るなど想像もしなかっただろう。築いてきた関係や立場もすべて奪われ、見知らぬ土地で幼子姿で捨てられた。その悲しみや憤りは、痛いほど伝わる。心が繋がっていることは、一長一短だった。


 まだ未熟で力の制御ができない幼いサラの感情は、剥き出しのまま聖獣達にぶつけられる。その痛みを理解するからこそ、ぬるい手加減はなかった。


 転移は一瞬だ。降り立った王城は寂れた印象が強い。豪華な絵画が掛けられた壁は、その日焼け跡を残すのみ。高価な壺が置かれた台は何もなく、カーテンや燭台に至るまで。金目の物は奪われていた。


 震える王族が逃げ込んだ王宮の奥へ進むアゼス、その後ろを黒豹と熊が続く。数歩先を、先導役のように黒狼が歩いた。掃除されなくなった絨毯の上を進み、乱暴に扉を蹴破る。机や家具を寄せて壁を築いた王族の悲鳴が聞こえた。


「ひぃいい! 近づくなっ!!」


「我らに命じるなど、片腹痛い」


 ふんと鼻で笑い、アゼスはさらに蹴飛ばした。ひと蹴りで積み上げれたバリケードが崩れる。瓦礫と化した頼みの綱を前に、国王夫妻は醜く命乞いを始めた。

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