45.好きな服が似合う人は幸せ
リディ達が用意したのは、全員でお泊りできる大きなお部屋だった。皇帝夫妻の寝室よりベッドが大きいと聞いて、ちょっと複雑な気持ちになる。分かるかな、日曜日の朝に早起きして両親の寝室へ突撃したら、二人がばっと離れた時の居心地の悪さ。あんな感じ。例えがピンポイントなのは、経験したからだよ。
「はっはっは、サラは面白いな」
その一言で今の意見を片付け、私を肩車するアゼスにしがみ付く。うーんと高いのは平気だけど、落ちた痛みが想像できる高さは怖いの。二階のテラスくらいになれば、もう怖くないんだけど。しがみ付いた頭や首はがっちりしてるし、肩も座り心地が悪くない。なんか、嫌いじゃないかも。
好きと言い切るには、まだ少し怖い。慣れたら怖くなくなるんじゃないかな。エルやアランも微笑ましそうに見てるから、落ちる心配はやめた。侍女があくせくと部屋を整え、あっという間に巨大ベッドの準備が整った。こんなに大きなシーツ、どこで売ってるんだろう。
「シーツは作らせたのよ。さすがに売ってないわね」
笑うリディが手を伸ばし、アゼスから私を受け取る。長い裾のドレスはさすがに遠慮したから、今はキュロット姿だ。ようやく仕上がったみたいで、思ってたよりふんわりしたスカート風だった。立ってるとスカートにしか見えない。フリルもふんだんに使われて、高級キュロットになってた。
「普通のでよかったのに」
「僕は普通に注文して、普通に受け取ったよ」
エルの普通が私の普通と違った。絵とまったく違うキュロットか問われたら、そうでもない。ふんわりしてるのも、どちらかと言えば好きだった。
「あのね、昔の私……こんな感じだったの」
鏡を見ては溜め息をついた、お世辞にも美女ではなかった自分を思い浮かべる。4人は特に反応を示さない。いや違う、アランはにっこり笑った。悪い意味じゃなくて、久しぶりに会った友人へ向けるみたいな笑顔だ。
「色は違うけど、成長したらそっくり」
お世辞ではなく、エルはそう言いながら目を細めた。リディやアゼスも好意的だ。これは今の私を知ってるせいかな。
「ふわふわでひらひらした服が好きだったけど、顔がぺちゃんこで似合わなくて」
好きな服が似合う人は幸せだと思う。私はシンプルで飾り気のない服ばかり買った。小学校の時、母親に強請って買ってもらったフリルたっぷりのスカートを、同級生に「似合わない」と言われたから。その日から好きな服ではなく、着てもおかしくない無難な服を選んだ。
似合わないよ、おかしい。その一言がずっと胸に刺さって、私は可愛い服なんて縁がないと諦めていた。それが異世界に来て、こんな形で着るなんて。ドレスもスカートもキュロットも、すべて可愛くて……じわっと涙が滲んだ。混乱してるのかな、私。
ぼそぼそと説明した内容を、彼らは否定せず聞いてくれた。それだけで昔の私が笑ってくれる気がする。救われたよね。
「サラちゃんは今も昔も、同じに可愛いわ。私は似合うドレスを選んだつもりよ」
リディのトドメに、私の涙腺は崩壊してしまい……夜遅くまで目元を冷やしてもらう。なんか昔の愚痴を吐きだしたら、すっきりしちゃった。