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44.水面下で忙しなく動く水鳥の足

 隠れて作業を進めることは、リディやアゼスも承知だった。知らぬはサラ本人ばかりなり。夜は召喚する前に、アランとエルが戻ってきた。機嫌良さそうなアランの表情を見れば、目当ての荷物を見つけたのだと分かる。


 明日の夜は誰がサラを独占し、誰が報復に回るべきか。アゼスは考えながらソファにもたれ掛かった。応接用に向かい合わせに置かれたソファでは、リディがサラの髪を結っている。美しい銀髪は触れるたびにさらさらと流れ、リディが器用に髪留めで固定した。


「うわぁ、綺麗」


 手鏡で確認したサラが嬉しそうに笑う。それを笑顔で見守る妻……なんとも眼福だった。皇帝の地位について数百年、これほど目に嬉しい光景もない。聖獣同士では、番っても子は生まれない。分かっていたが、こうして子どものいる光景を目にすれば、養子に望んだ妻リディの気持ちが痛いほど伝わってきた。


「アランやエルも喜ぶかな」


「喜ばないはずがない。もう到着したぞ」


「え? 召喚前なのに」


 不思議そうなサラに、あいつらは呼ばれなくても勝手にサラの周りに帰ってくると伝える。幸せそうに「そっか」と笑う姿に、己が選んだ言葉の意味に気付いたアゼスが苦笑いした。


 そうだ、聖獣達はすべて聖女サラの元に服従の意を示した。契約した主人の元へ集まるのではなく、帰ってくるのだ。血に汚れる仕事であろうと、殺伐とした戦場の後であろうと。大切な主人が呼んでくれなくても、必ず彼女の元へ帰る。


「明日は誰と過ごしたい?」


「アランとエルはお仕事だから、リディとアゼスがいてくれる?」


「二人がよいか」


「うん……あ、でもお仕事があったら一人でも平気」


 全然平気じゃない顔をして、幼女なのに大人びた配慮を見せる。人間として生を受け、まだ20年前後だろうに。我らのような長寿からみれば、瞬きほどの時間だった。甘えていいのだと知らせるために、アゼスは手を伸ばしてサラを膝に乗せた。


「望んで構わん。何でも欲しいものは手に入れてやろう」


「ううん。それはダメ。私は弱いから誘惑に負けちゃうもん」


 誘惑に負けていいと言っても、彼女は遠慮する。そんなサラだから愛おしい。リディがそう伝えてきたところで、アランが割り込んだ。聖獣同士、距離は関係なく思考を共有できる。目的の荷物を発見したこと、決行は明日の夜になることへ、アゼスは声に出さず了承を返した。


「久しぶりの宴か」


 宴って、宴会? サラが浮かべた可愛らしい考えに頷きながら、皇帝アゼスはケイトウ国の後始末を考える。空白地帯が出来れば、近隣国が動き出す。その前に押さえる必要があった。今夜のうちに騎士団を派遣するか。難民を受け入れるより、その場に留まらせて税収を確保する方が損は少ない。一度放棄された領地は荒れ、今後の使い道も価値も下がるのだから。


「お待たせしました、サラ。今夜も一緒に休みましょうね」


 アランが綺麗に笑顔の仮面をかぶって登場する。アゼスはリディに目配せし、明日の段取りを組み始めた。久しぶりに忙しくなりそうだ。

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