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43.こっそり隠れて仕事を進める

「サラって純粋だよね」


「分かります。本当に純粋すぎて、思わず性格を隠してしまいました」


「僕も」


 エルとアランは黒い笑みを浮かべながら、策略を巡らす真っ最中だった。サラは無理やりこの世界に呼ばれた。それは想像もつかないほど過酷な状況だ。知り合いの一人もいない世界で、家族や友人から引き離され、さらに面倒を見ずに捨てた。


 聖女として召喚したくせに、ケイトウ国は定められたルールさえ守らなかったのだ。名もなきこの世界は、神の箱庭と称される。女神が治める箱庭は、聖獣4人と人間によってバランスを保っていた。


 現時点で魔王は大人しくしているし、大きな天変地異や災厄もない。聖女召喚の条件を満たしていなかった。他国に対して有利に立とうと考え、ケイトウの王族が暴走したに過ぎない。それは女神との盟約を破る行為だった。


「女神は何か言ってましたか?」


「それがね、聖女召喚の余波で寝込んでるみたい。好きにしろってさ」


 エルの返答にアランの口角が上がる。笑顔なのに薄ら寒い。悪巧みをする代官のような顔、サラがいたらそう表現しただろう。明らかに悪人に分類される笑みだった。


「国民を煽るのは王道ですね。それからサラが奪われた異世界の荷物も回収しなくては」


「荷物の場所は探らせてる。僕の領地で食料を絞ったから、そろそろ限界じゃないかな」


 見極めるように目を細めて、エルが水鏡を作る。空中に浮かぶ水鏡は、遠方の水が映す光景を投影した。噴水を利用したので、水面がすこし揺れる。ケイトウ国の城門は詰めかけた国民で溢れていた。


「明後日でしょうね」


 限界を読んで、アランが崩壊までの日数を数える。風が掴んで送り込む情報は大量だ。それを選別しながら、決行予定日を定めた。明日の夜、可愛い幼女からなけなしの荷物を奪った人でなしを処分する。


 貿易中立都市バーベナは、サルビア帝国から完全に独立している。軍事的に帝国の傘の下にいるのは、聖獣エルが比較的若いためだった。カッとなって人間を殲滅しないよう、女神がストッパーをかけたのだ。あまりに強大な力を誇る聖獣だからこその処置だった。


 その意味を人間達は勘違いしている。聖獣にも上下があるのだと。格で言えば横並び、突出するのは聖女だけだというのに。


「今日は荷物探しに精を出すとしましょう」


 風を利用して噂や内緒話を収集していく。どの情報が役立つか不明の状況で、ひとつずつ突き合わせるのは疲れる。それでもアランは成し遂げるつもりだった。サラが笑って「ありがとう」と言ってくれるなら、多少の苦労は買ってでもするべきだ。


「僕はケイトウから流れてきた難民の選別かな……はぁ、面倒臭い」


 文句を言いながらも、互いの役割を確認して別れた。自治領の領主は、小国の王と同等だ。ある程度の篩い分けは現場の文官や騎士に任せるとしても、最後の決断は領主の仕事だった。気の毒なエルを見送りながら、アランの口から本音が漏れる。


「サラのお礼を独占できるチャンスなので。遠慮なく取りに行きますよ」


 まったく悪いと思っていない声色だった。

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