42.加護をすべてもらうと最強伝説
食後はお庭へ出た。人に話を聞かれづらいんだって。花壇の合間や噴水の裏に人が隠れてるかも知れないと言ったら、そんなのはすぐ気付けると言われた。聖獣だから獣で鼻が利くのかも。
「僕とアランはこの後、仕事で戻るから……加護の話だけしようね」
エルが切り出したのは、昨日の夜に約束した加護の話。それぞれの聖獣が、ちゃんと属性に分かれてるところまでは理解してる。ただ、与えてもらった加護が何に役立つか、想像もつかなかった。
だって、いわゆる「神様のご利益」みたいな感じで、ゆるっとふわっとした概念だもん。ご利益だから良いことがあるんだろうなぁ……と思う程度。
「もっと具体的な効果がありますよ」
アランが優しく訂正した。
「私の属性は風に特化しています。他の聖獣も同じだが、聖獣はすべての属性が使用可能です。ただ得意な属性が際立っていますね」
炎、水、風、大地……すべて使えるけど、アランは風が一番得意という意味ね。大きく頷いた。
「それぞれに得意な属性の加護を与えましたので、聖女であるサラが最強です」
「なにそれ」
最強とは、一番強いことを指す言葉だよね? 自力で歩かせてもらえない幼女に、その称号を与えたら魔王とか怒るよ。
「魔王ですか? 会いたいなら攫ってきますよ」
攫う相手なの? 普通は戦う相手なのに。もしかして……振り返ると、私を抱っこしたアゼスが大きく頷いた。
「ちょっかい出してきたんで、叩きのめしておいた」
その程度の相手だと笑い飛ばされてしまった。普通、聖女や勇者の召喚は魔王退治のためなんだけどね。ほんと、私は何のために呼ばれたのやら。
「話がズレてしまいましたね。私が授けた加護は風、物理的に切れない物はありません。気温の調整もできて便利ですよ」
新製品アピールみたいに、軽い口調でお得感を押し出してくるアランの横で、エルがぴょんと飛び上がった。
「僕は水だから、どこでも水を出せる。雨を降らせたり、逆に旱魃にしたりも簡単かな。あと……水も物が切れるんだ」
あれか、レーザーみたいに細く強く打ち出した水が金属も真っ二つ。テレビで観たことある。
「うん、それ」
笑顔で物騒な使い方を口にするエルは、現在は若造と呼ばれる青年姿だ。もっふもふの熊毛皮は最高だった。やんちゃなお兄さん枠は確定だね。
「使い方はリディとアゼスに聞いてください。そろそろ戻らないと、仕事に差し支えますので。また夜に呼んでくださいね」
アランは、まだ残ると駄々を捏ねるエルを連れて、ぽんと姿を消した。本当に忙しいみたい。時間を作ってくれたの、優しいな。にこにこしながら手を振った。もういないけど。
「私の炎は、狐火よ。実際の温度がある火も操れるし、それ以外の使い方もあるわ。狐火は人の体を焼かずに、魂を焼くことも出来るの」
「……物騒なのは分かった」
そうじゃなくて、森で野宿しても火を起こせるよね。そういう説明だけで良いんだけど。たぶん魂だけ焼く予定は一生ない。それって拷問に近いじゃん。
「本当に優しいわね。だから私達がいるんだわ」
よく分からないけど、物騒な言動はお任せします。うっかり心で呟いた言葉は、お約束のフラグとなった。