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41.まさかの朝からステーキ

 支度を終えて朝食の席だけど、もう疲れてしまった。どうしても裾の長いドレスを着せたい聖獣達と、動きやすい服装を希望する私の間に、日本海溝より深い溝が横たわってる。


 侍女や他の使用人は、私が抱っこされてると微笑ましいと書いた顔で見送ってくれた。しばらくは諦めよう。


「皇族になったばかりだから、余計に溺愛ぶりを見せつけたいんだ」


 勘違いした奴に襲われたくないだろう? そう尋ねるエルに頷く。悪役令嬢っぽい綺麗なお姉様に「見窄らしい子だこと」と蔑まれても我慢できるけど、誘拐や拉致はごめん被りたい。生きて帰れない戦場に行きたい幼女はいないよね。


 今日はアゼスのお膝で朝食。二人羽織みたいに、カトラリーを持つ私の手をアゼスが包み込む。大きい手は温かくて、何よりがっちりしていた。お膝の座り心地は硬いけど、安定感がある。


 ナイフは押して切るんだっけ、引いたら切れるんだっけ? 首を傾げた私の手は、ノコギリみたいに前後させる。そのうち切れるよね。たぶん柔らかい肉だろうし。


「柔らかい方が好きか? ならば次回から柔らかい肉を用意させよう」


「アゼス、このお肉かたいの?」


「聖獣って基本肉食だから、硬い肉も平気なのよ」


 優雅な手付きで銀食器を扱うリディだけど、肉を切るときは結構力を入れてる。それだけ硬いなら、私の顎が耐えられるかどうか。


「噛み砕いてやろう」


「うん?」


 了承だと思ったのか、機嫌よく自分の口で噛んだ肉を与えようとするアゼス。これはあれだ、親鳥が雛に餌を与えるシーンじゃん。


「やだ」


 ナイフとフォークを放り出し、両手で拒絶した。キスになっちゃうし、それ以前に無理だ。誰かが噛んだ肉を貰うなんてヤダ。今まで柔らかいお肉が多かったから、安心してた。エルやアランも平然と噛んでるけど、そういえば咀嚼回数が多いかも。


「レアなら大丈夫じゃないかしら」


 リディがこてりと首を傾げて提案した途端、侍女が一人出ていった。用意させるんだと悪い……残すことになっちゃうし。


「安心しろ。我が食らう」


 宣言通り、アゼスの口に放り込まれた肉は、次々と消えていく。さして待たずに、レアステーキが運ばれてきた。そこで気づく。そもそも、朝食から肉って……がっつりステーキで胃がもたれないのも凄い。


 感心しながら、アゼスの二人羽織で肉を切る。今度はすっとナイフが入った。でも生のせいか、血がぶわっと溢れ出た。ハンバーグの肉汁みたいに透明じゃなく、もう血そのもの。


 以前の私はミディアム派だったのに、なぜか口の中に唾液が溢れる。美味しそう、素直にそう感じた。口に入る大きさに切った肉を頬張る。かなり小さくしたつもりだけど、頬は栗鼠のようにパンパンに膨らんだ。


「美味しいですか」


 笑顔でアランが尋ねるが、口がいっぱい。声が出ないので、大きく頷いた。柔らかいし美味しい。朝からステーキ、悪くないかも。

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