40.貧乏人の価値観は、もふもふに通じない
夜も遅いので、加護については明日教えてもらう約束をした。夜会は無事に終わり、誰も私に「得体の知れない拾われ者め」と悪態をつくことはなかった。悪役令嬢みたいな人がいて、聖女について疑ったりするかと思ったのに……。
「あのね、サラ。聖女は聖獣の認めた主人だよ。その聖獣が4人そろって目の前にいるのに、直接否定できる人間なんていないでしょ」
エルが頬杖ついて指摘する。それもそうか。
「そうだよね! じゃあ、エル達がいないと言われるのかな」
ドキドキしちゃう。どんな言葉だろう、どうやって返したらカッコいい? 胸を高鳴らせながら尋ねる私は、入浴もお着替えも終わってベッドの中。隣に寝転ぶエルと、お目付け役でアランが一緒だった。一応、男女だから同衾するべからずかな?
「サラを貶せる人間は処分ですね。同衾ですか、そういう考えは人間のみでしょうか」
恐ろしいセリフを平然と口にするアランに悪びれた様子はない。本当に処分しそう。処分の内容は怖いから聞かないけどね。
「僕達は聖獣だから、獣姿でいたら同衾じゃない。ほら」
ぽふんと軽い音がして、エルが熊になる。といっても大きい熊じゃなくて、私の等身大テディベアサイズ! これなら抱っこ出来る。ぎゅっと抱き着いたら、ふかふかでお日様の匂いがした。
「日向ぼっこしておいたからね」
「素敵!」
「……私の方が柔らかいですよ」
のしっとベッドに上ったアランが、黒豹姿で近づく。こちらは小さくなると黒猫になってしまうので、標準サイズだ。大人の男の人くらいだから、私を包めるほど大きかった。ベッドは大人二人分以上乗っても、みしみしと軋み音を立てない。高価なベッドは違う。
昔の私が使ってたニッキュッパのパイプベッドじゃ、たぶん足が折れてる。
「にっきゅっぱ?」
可愛い熊の繰り返しに、私はうーんと説明に困る。例え様にもこの部屋には豪華な品しかないし、彼らに安物の概念があるか分からなかった。
「豪華な食事二回分くらい?」
値段も階数もお高い展望レストランなら、一番安いコースが1万5千円くらいだったと思う。それ2回分と示したら、彼らは考え込んでいる。一般庶民が食べるちょっと豪華な夕食と説明を付け加えた。
丸くなったアランの毛皮に包まれ、等身大テディベアのエルを抱っこした私に掛けられたのは、思わぬ同情の言葉だった。
「そんな安いベッドがあるの?」
「牢内でも使わないでしょうに」
「これからは贅沢させてあげるからね!」
ん? 何か価値観に違いがあるみたい。牢屋でそんなお高いベッドを使うなんて知らなかったし、この世界と私のいた世界の常識がそんなにズレてたなんて。また例えを考えてみるけど、伝わらない気がした。とにかく安いベッドだったの、それでいいや。
「サラのいた世界のお話は興味深いです。その細い棒で出来たベッドも含めて……また話してくださいね」
アランにいい声で囁かれてしまい、赤くなった耳を押さえて頷いた。色気を垂れ流すアランは危険指定してもいいと思う。優しさと色気が、未婚彼氏なしイコール年齢だった身に沁みる。恥ずかしすぎて、毛皮の中に顔を埋めて寝たフリを始めた。
気づいているのに、笑って許してくれる彼らが好き。広いはずの部屋を半分ほど埋めるプレゼントを開封して、加護の説明を受けて……明日も忙しいな。はふっと欠伸をして、温かさに包まれて目を閉じた。明日も素敵な一日になりますように。