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34.長すぎる裾は溺愛の証?

 私が異世界ファンタジーとして知ってる玉座は、背が天井まで届きそうな椅子だ。大抵は真紅や濃紺で縁が金、宝石が各所に埋め込まれた豪華で悪趣味なデザインが特徴よね。


「悪趣味……」


 ぼそっとアゼスが呟く。幸い、ここの玉座は家族用の長椅子みたいだし、金細工じゃない。猫脚の曲線が美しい長椅子は黒の革張りで、肘置きや背もたれの部分に金じゃなく赤い樹脂が使われていた。いや、樹脂じゃないのかな? 撫でてみたら、プラスチックっぽくて冷たい手触りだった。


「ぷらすちっく? これはね、ルビーよ」


「……るびぃ?」


 私が知ってるルビーって、指輪に使われたりする、小粒の石なんだけど合ってる? 同じ宝石? 頭に思い浮かんだのは、ゼロがたくさんついた宝石店の指輪だった。


「同じよ、よく知ってるわね」


 偉いと頭を撫でるリディだが、金銭感覚おかしくないかな。ルビーで椅子の金具部分を作ったの? どこからどこまで? 混ぜ物なしなのかな。


「混ぜ物はないわ。掘り出した宝石を削り出して組み合わせたの」


 おほほと笑うリディは、いかに宝石を集めるのが大変かを語り出した。聖獣は風水の四神と同じで、それぞれに属性があるらしい。エルは水、アランが風、炎のリディ、最後にアゼスが土。苦労したのはリディじゃなくて、アゼスだね。


「あら、バレちゃったわ」


 貴族を放置してころころ笑う皇后陛下、突然現れた幼女で皇女もどきの私と妻を微笑ましく見守る皇帝陛下。視線を向けた先で、偉そうな貴族が何度も咳払いをして注意を引いている。


「アゼス、あの人が呼んでる」


「いや、呼ばれてないぞ。我は皇帝だからな」


 勝手に呼ぶことは許さん。ぴしゃりと暴君な発言で切り捨てる皇帝陛下のお陰? で、貴族達は腰を屈めた挨拶の姿勢で固まっていた。


「あの、顔を上げてください」


 おじいちゃんもいるのに可哀想。同情心から、そう声をかけた。顔を上げるか迷う貴族を見て、アゼスが不機嫌そうな声を出す。


「我が娘の優しさを踏み躙る気か」


 ぺちっ! 間抜けな音がした。アゼスの叱責に反応して顔を上げた貴族は、幼女が繰り出した平手がアムルゼスの頬を捉えたのを見た。青ざめる彼らの心配は分かるけど、アゼスは怒らないよ。


「サラ、可愛い我が娘よ」


 頬擦りするアゼスはただの親バカだった。心配いらなかったでしょ。得意げに胸を張る私を、聖獣二人が笑顔で見守る。と……足を覆う長すぎるスカートで滑った。慌ててしがみ付くけど、アゼスがしっかり掴んでくれた。


「これ、長すぎるね」


「ん? そうか……サラは知らぬのだな。これは我らの溺愛の深さを証明しているのだ」


「そうよ。歩けない服を幼子に着せるのは、ずっと抱いて歩く親の愛情を示すの。先に説明しなかったかしら」


 そんな説明されてない。でもそっか、溺愛の証……なんだか嬉しいような恥ずかしいような気持ちで、そっとスカートを撫でた。私、大切にされてる。前の世界でも……あれ? 私が前にいた世界って、なんて名前でどんな感じだったかな。急激に薄れた記憶に、足元が揺らぐ恐怖を覚えた。

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