31.魔力を唇に集める方法がエロい
はぁ……溜め息を吐いたアランへ説明役をバトンタッチ。今度は彼が説明してくれた。
「サラ、これを感じ取れますね」
感じ取れますか? じゃなかった。でも問題ない。何かが動いてるのが分かる。よくラノベで「温かい何かが動く」なんて表現されるけど、ちょっと違っていた。だって温度は感じない。肌の下を移動するのが分かるけど、一番近い表現で手の上を転がす水の玉かな。
触れてる感触はあるけど、すぐに消えそう。氷というほど固形物じゃない。肌を伝う水が内側にある感じ。ぞわっとする嫌な感じはなかった。
「それが魔力です。唇へ移動させてください」
「どうやると移動するの?」
水と認識したせいか、足の方へ落ちていく気がする。戻すには掬い上げる? でも難しいな。形がないし、体の内側だし。水じゃなくて、砂だったら戻せる? 考えながら試行錯誤した。
「こればかりは感覚なので……伝えづらいですね」
困ったようなアランの顔を見ながら、私は考え込む。体の内側を移動できて、水や砂に近いものがあれば、イメージしやすいよね。両手を広げてじっと見つめる。魔力と言われた何かは、指の先に集まっていた。末端へ向かう習性があるの? だとしたら全部指先に集まっちゃうし、先を切り落としたら流れ出ちゃう……あ!
血だ! 血のイメージ。体の中を巡って、心臓をポンプにしてまた押し出される。唇に血が集まる感じ……残念、よくわからないや。自分の血を操ったことないから仕方ないけど。そう思った私の唇に、アランがそっと指を這わせた。ぶわっと赤くなる。
「その感じです、お上手ですよ」
褒めるアランの声に頬が赤くなり、触れられた唇に感覚が残ってる気がした。そのまま促されて、名を呼ぶ。耳に聞こえる私の声は同じなのに、重なって聞こえた。
「成功です、これが魔力による召喚ですから覚えてくださいね。今夜の呼び出しを楽しみにしています」
色っぽいんだが……相手が幼女でいいのか疑問に思う。これは色っぽいお姉さん相手に発揮するスキルじゃない?
「サラは魅力的だから安心して」
「あ、うん」
エルに慰められちゃったじゃん! でも一度成功したことで、次も成功する気がした。でも魔力を唇に集めるたび、アランの手を思い出しそうで。いやんと首を横に振って両手で頬を包む。それから顔を上げると、アランが羽交い締めにされていた。
「アゼス、何してるの?」
エルは右手を振り上げてるし、よく見たらリディがアランの足の甲をヒールで踏んでる?
「だって、可愛いサラちゃんを誑かすんだもの」
「そうだ、恋愛はまだ早い」
皇帝陛下ご夫婦にそう言われても、昨夜はベッドで二人きりでお過ごしだったんですよね? 私にそんなこと言えるんかしら。ぷんと頬を膨らませて、言葉に出せない抗議をした。解放されたアランは苦笑いし、エルはおろおろしてる。
「もう! 宮殿に帰るんでしょ?!」
もたもたしないで! 恥ずかしいので全力でアゼスを押してみた。頑張っても太ももにしか届かなくて、抵抗虚しく抱き上げられてしまう。そのまま出かけることになった。
用意された服はロングドレス。可愛いけど、やっぱりパラシュートにするのかも。私の身長より長い裾のドレスに、それしか思いつけなかった。危険な旅になりそう。