30.私、たぶんそれ……持ってないよ?
朝から熱々のお二人の向かいで、アランとエルの間に座った。両手を繋いで連れてきてもらったので、捕まった宇宙人の図が近かったかも。この例え、世代によって通じないらしいね。ちょっと年齢を顧みて辛い。異世界だと、そもそも全世代通じないけど。
「うちゅうじん、ですか。サラの方が可愛いですよ」
心の中で浮かべた図を見たのか、アランに慰められてしまった。ご飯はホテルの朝食みたいな感じだ。サラダ、スープ、パン、卵料理。この世界のパンは、不思議な香りがする。私は好きだけど、パクチーっぽい匂い? 発酵にハーブでも使うのかな。
味は普通に美味しいので、もぐもぐ食べる。間に卵を挟んで齧る。
「サラ、僕も召喚してね」
私の銀髪を撫でながら、エルが寂しそうに呟く。このご飯を食べ終えたら、召喚を教えてもらうの。アランの説明がいいな、一番分かりやすそう。アランだけじゃなく、エルも呼ぶと約束した。契約しているけど、さすがに皇帝陛下は呼びづらいな。
皇帝陛下のアゼスのお嫁さんはリディで……私は皇女様になるんだよね。サラ姫って言ってたし。ということは、リディは皇后殿下?
「皇后陛下ですね」
アランがそっと訂正する。あれ? いろいろ混じってる。国王は陛下、王妃は殿下。でも皇后だと陛下なのね。理由は知らないけど、アゼスとリディは両方とも陛下で覚えよう。
早く召喚方法を教えてもらおうと、口の中にパンを詰め込んでいたら、アランに邪魔された。スープを「あーん」したり、食べてるパンを千切ったりするの。もう!!
「焦る気持ちはわかりますが、ゆっくり食べてください。体に悪いですよ、サラ」
心配されちゃった。きょろきょろすると、向かいでいちゃついてた夫婦や隣のエルも頷く。
「ごめん、ちゃんと食べる」
時間がどのくらいあるのか、よく分からないし。日本人は時間厳守で5分前行動だから、つい……社会人の癖が出ちゃった。今の私は異世界の幼女なんだから、もっとゆっくりでいい。自分に言い聞かせながら、一口を30回噛んだ。これは昔、おばあちゃんに言われたやつ。
スープもほんのり甘くて美味しいのに、流し込んだら勿体無いよね。果汁を薄めたジュースも用意され、あれこれとアランやエルに世話を焼かれながら食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
両手を合わせて挨拶する。にこにこ見守る四人を見回せば、エルが頭を撫でた。
「よし、それじゃ召喚方法を教えよう」
勿体ぶってエルが切り出す。人差し指を立てて、私の前に示した。
「魔力を込めて、僕らの名前を呼ぶだけ。愛称でもいいよ」
魔力……魔力って、魔法に使うアレ? たぶん聖獣の皆は簡単に扱うと思うんだけど、私、それ……持ってないよ?