24.貧乏性のもったいない炸裂
ピンクのカボチャにしか見えなかったイチゴをお菓子にすると聞いたけど……これはスープ? ポタージュっぽい感じで、とろりとしていた。不思議なのがスープ皿じゃなくて、あれに入ってる。ほら、カレーを入れてるボートみたいな形の……えっと、グレービーポットだっけ?
銀色のポットに入ったスープを見つめていたら、ガラスの器が並べられた。今日は天気がいいから、朝食をお外で食べるの。お庭の奥にある大木の根元に、美しい絨毯が敷かれて机がセットされる。お外なのに、こんなに綺麗な絨毯を使っていいのかな。
「たくさんあるからいいのよ」
「そういう問題じゃないの。もったいない」
思わず口から出たのは貧乏くさいセリフだった。あの絨毯なら室内で大切にしたら、何十年も使えそうなのに。私はそうするけどな。もったいないと口をついた単語に、全員が顔を見合わせた。
「その、もったない? って何語」
「その前よ、サラちゃん貧乏を強いられてたの?!」
「なんとお労しい。ご安心ください、今後は絨毯など日替わりでご用意します」
エルは単語に興味を示した。ここまではいいけど、リディの勘違いと方向性がおかしいアランはどうにかしないと。毎日とんでもない贅沢を強いられそう。元が貧乏性だから、贅沢は敵なの。
「絨毯は一つでいいよ。ずっと使えるもん」
「サラちゃん、絨毯って長くても1年使わないのよ」
真剣な顔でリディが異世界の常識を説く。え? そうなの? じゃあ、私は非常識なんだ。困ったな。
「贅沢は敵なの、そういうの、ダメじゃないかな」
ぼそぼそと言い訳がましく呟いたら、すごく同情された。可哀想と言いながら抱き締められる。その間に、アランはてきぱきと食事の準備を整えた。
「奥様、サラはまず贅沢に慣れるところから始めなければなりません。今はまだ強要してはいけません。わかりますね」
「そうね。すぐに慣れるわ」
心の奥の方で「無理だと思う」と反論してしまうのは、日本人のもったいない精神が染み付いた私の本質だよ。もう直らない。
「あとね、エル。もったいない、だよ……えっとまだ使えるのに捨てたりすることを言うの」
「ああ、そうなんだ。前の世界の言葉なんだね? 覚えておく。でもこの絨毯は、先日まで部屋で使ってて交換した古い絨毯だから。安心して」
十分綺麗なのに交換されちゃったんだ。トコトコ歩いて絨毯に座ろうとしたら、止められた。ここは西洋に近い文化だから、絨毯の上に座るのはいけないのね。屈んで撫でたら、ふわっふわで柔らかい。昔の私の部屋の2年目絨毯より柔らかいんだけど?
「ひとまず、朝食にしよう」
促すエルに頷き、テーブルに用意された専用の椅子に座る。そう、幼児って足が短いから届かないじゃない? 子ども用の椅子を用意してもらったの。いつまでもリディのお膝もどうかと思うし。食事中にお胸が後頭部に当たると気が散るからね。
「いつでも戻っていいのよ」
「……うん」
こう言う時、どんな顔をすればいいのか。実際のところリディのお胸もお膝も嫌いじゃないから困るの。ファミレスにありそうな子ども用椅子に座り、目の前のガラスの器に果物が盛られるのを見守った。よく見たら、シリアルっぽいのも入ってる。
小粒の干し葡萄みたいの、麦を潰したようなもの。果物やシリアルの上から、アランは遠慮なくピンクのスープを掛けた。あ、やっぱりカレーポットの使い方で合ってたみたい。その脇に薄めた果汁が並んだ。
「イチゴが好きみたいだから、用意させたんだ」
得意げなエルにお礼を言って、食べてみた。あれだ、甘いイチゴミルクを掛けたシリアル。それもチョコに似たべっとりした甘さだった。好きな味だけど、たぶん主食じゃなくてデザートじゃないかな。
もぐもぐと口を動かす私の前に、アランが笑顔で続きを差し出す。食べ終わると流し込まれ、続けるうちにピンクのシリアルは食べ終わってしまった。なんてこと、美味しかったわ。お腹もいっぱいになった。
木漏れ日も気持ち良くて、私は大きく伸びをした。そのまま椅子ごと後ろに転がり掛けて、慌てた聖獣達をクッションに助かる……皆、緊急時は元の姿に戻るの? すっごいびっくりした。