表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/100

17.お母様と呼んでみたら照れる

 この世界に来て、あまり街を見ていなかった。だから中世ヨーロッパっぽい発展途上の世界と決めつけてて……まさか、こんな大きな店があるなんて!


 記憶にあるスーパーを通り越し、デパートだった。建物は4階まである。でーんと立ちはだかるレンガの壁が見事だった。これは凄い。緊張しながらリディと手を繋ぐ。アランがさっと抱いて下ろしてくれた。馬車を残して、3人で中に進む。


「奥様、個室での対応が可能とのことです」


 店に入るなり、アランさんが何か交渉した。店の入り口に強面のおじさんが立ってるんだよ。用心棒みたいなの? それとも別の役目があるのかな。


「なら個室を押さえてちょうだい」


 簡単そうに頭の上で話が進む。きょろきょろ左右を確認した私に、リディがにっこり笑った。


「お部屋に服を運んでもらいましょうね」


「え? 見て回らないの?」


 お互いにきょとんとした顔で見つめ合い、リディは私を抱き上げた。顔を近づけて、見て回りたいかと尋ねる。だから頷いた。いろいろあるし、見たことない物も並んでる。異世界のデパートに興味があった。


「お久しぶりでございます、オルドリッジ夫人」


「この子の服が欲しいの。どのあたりにあるかしら」


「個室に運ばせましょう」


 うーん、貴族の買い物って個室に運ばせるスタイルなの? 庶民だったからよく分からないや。リディは奥様だし、きっとお金持ちでいつも運んでもらうんだよね。お店を歩き回るなんて、よくないのかな。


「サラ様、お気になさらず。店を見たいのでしたら、僕が」


「私が抱いて行くから問題ないわ」


 人前だと、アランは私を「サラ様」と呼ぶ。奥様の養女になってるせいみたい。再び大岡裁きが出そうになったけど、アランが肩を竦めて引いた。これも立場の差? 難しいな。後でよく教えてもらおう。


「さあ、行くわよ。まずは外出着、それから室内着と下着、外套などの上着も必要ね。靴も可愛いのが欲しいけど、あったかしら」


「リディ」


 呼んでから慌てて口を手で押さえる。もしかして「奥様」と呼ぶべきだった? 慌ててリディの顔を見上げると、心の中で声が響いた。ママがいいと言われたけど、ちょっとハードルが高い。過去も「お母さん」だったし。それならお母様はどう? と聞かれて唇を湿らせる。緊張するなぁ。


「おか、あさま」


 嬉しそうにリディが「なぁに?」と尋ねる。その笑顔が本当に幸せそうで、私も嬉しくなった。でも恥ずかしさもあって、照れちゃう。


「あのね。自分で触って選んでもいい?」


 手触り重視で行こうと思ったんだけど、リディはもちろんと頷いた。さっき話しかけてきた店の偉い人っぽいおじさんに付いて、店内を見て回る。ワンピースやドレスが多いけど、普段着に使えそうな服もあった。それに下着や靴、帽子、バッグに至るまで。なんでも揃ってる。


「こちらは一点物でして、ぜひオルドリッジ家のお嬢様に身に付けていただきたい」


 店のおじさんお勧めは、キラキラしたドレスだった。お値段の桁が多い。数字じゃないから読めないけど、他の札は3桁や4桁なのに、これだけ6桁もある。要らない。首を横に振った。


「やだ」


「本当にいらないの? きっと似合うわよ」


 その分他のお洋服を買った方がいい。庶民は高価な服に慣れてないし、そもそも子ども服って長く着ないから。成長期だと1年も着られないじゃない。心の中なら店の人に聞こえないので、遠慮なく理由を並べた。残念そうにしながら、リディが諦める。


 ところであの服に使ってる、きらきらは何だろう?


「あれ? 宝石の粉よ」


 ……宝石の粉? 桁違いの値段に納得し、同時に絶対いらないと心の中で改めて叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ