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16.甘えてもいいと許される幸せ

 ご飯の後、お洋服を買いに行く約束をした。考えてみたら、この世界で私の持ち物はない。前の世界から持ってきたものは奪われちゃったし、身ひとつで捨てられたから。


 リディは新しい物を選ぶチャンスと笑うし、金は任せろとエルが胸を叩く。アランは準備に余念がない。いいのかな、そんな甘えちゃって。


 前の世界で大人だったから、いろんな思いが渦巻く。タダより高いものはないし、迷惑も掛けっぱなしでお返し出来てないとか。


「ねえ、サラちゃん。こう考えたらどうかしら。この世界であなたは幼女よ、まだ幼くて一人で生きていけない子ども。私と養子縁組して娘になったんだもの。前の世界のことは忘れて、この世界の幼女として生きてみない?」


 目から鱗って、こういう時に使うのかしら。この世界で幼女として生まれ変わった。そう考えたら、親に甘えるのも、大人がいろいろしてくれるのも当たり前。むしろ、面倒見ないとネグレクトだよね。


「お金は余っていますし、聖獣ですから強さも地位もあります。ご不満ですか?」


 アランが畳み掛けてくる。地位があるのは、奥様や領主様の様子から察してた。聖獣なのに人の世界に混じって、人の姿で生活してるのと関係あるかな?


「サラはもっと頼っていいぞ。聖獣は主人となった聖女や聖人の笑顔が、最大の喜びだ。もし悪いと思うなら、たくさん頼ってお礼と笑顔を振りまいてくれ」


「いいの?」


 そんなんで、いいの? 他に何もないよ。美味しいご飯も作れないし、裁縫や掃除のお手伝いも出来ない。ただの足手まといなのに、いいって言ってくれる。じわっと目が熱くなって、ぽろりと涙が落ちた。優しく拭うアランが頷くから、私も笑顔で頷き返す。


「サラちゃんの身分証は任せたわ。じゃあ、お買い物に行きましょうね」


 リディが私の涙をハンカチで拭いて、にこにこと手を差し出す。抱っこじゃなくて歩いて行こう。そう示され、握り返した。反対の手をアランが繋ぐ。出遅れたエルが悔しそうに唸った。


「俺も行きたい」


「身分証ができたら追いかけてきていいわよ」


 リディは釘を刺し、アランも頷いた。私は二人の顔を交互に見た後、エルに声をかけた。


「追いかけてきてくれる?」


「もちろん! すぐに終わらせるから」


 全力で走れば馬より速いとか、怖い呟きが聞こえた。まさか街中を熊姿で追いかけて来る? それはちょっと怖い。黒豹や大狐が迎撃しそうだし。私の心を読んだのか、リディ達が吹き出した。


「大丈夫よ、そんなバカなら契約解除してあげるから」


「サラに迷惑をかけるなら処分ですね」


 半泣きで走り去るエルは、少し離れたところで立ち止まった。振り返り、私に手を振る。


「絶対に追いかける! 待っててね」


「わかったぁ!」


 大きな声で返事をした後、リディやアランと手を繋いだまま屋敷を出る。噴水があるエントランスに用意された馬車に乗り、昨日通り過ぎた街へと戻った。ごとごと揺れる馬車の中、楽しみで頬が緩む。


 子供服のお店ってどんな感じだろう。動きやすい服がいいな。色は拘らないけど、キュロットみたいなの、あるかな。わくわくしながら窓の外を眺めた。

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