13.首だけ召喚されなくてよかった
流れ込むのは誰の感情だろう。怒って泣いて悲しんで、私を大切そうに抱き締めてくれる。
起きた私は、ぼんやりと窓の外を見つめる。夜明け前かな? 青紫の空がとても綺麗。青い光が室内に入って、まるで水の中にいるみたいだった。誰もいない部屋で、ただ窓の外が白んでいくのを眺める。
さっきの夢は誰だろう。私じゃないと思う。いきなり連れ去られ、気付いたら幼女になっていた。持っていた物もすべて奪われた私を「可哀想」と感じるのは、別の人だよね。それから湧き起こった怒りと、私への愛情。真っ直ぐに向けられて、温かさで包まれた。
ああ、あれだ。母親の胎内で感じる無条件の愛情に近い。何も心配はいらないと優しく撫でる手が心地よくて、私が肯定された。醜い怒りや悲しみも浄化される。
「起きたのね」
扉がいつ開いたのか、まったく気づかなかった。奥様……じゃなくて、リディがするりと入ってくる。獣の姿なのは、屋敷の人に見られたらまずいんじゃないかな。
平気と返事があって、擽ったい気持ちで首を竦める。言葉じゃなくて伝わってくるのを、不思議な感じで受け止めた。心地よくて、でも他人と自分の境目が曖昧になる。
「心を読まれるのは嫌?」
声に出して尋ねられ、少し考えてみる。汚い感情を他人に見せるのは気が引けるけど、別に構わない。だってこの幼さに引き摺られて、直球の感情ばかり。他人を妬んだり羨む年齢になったら、恥ずかしいかも知れない。
「平気」
「ふふっ、そうね。しばらくは繋がりが深いけれど、やがて自分で調整して選べるようになるわ。今の私がサラちゃんにすべてを見せないのと同じ」
「そうなの?」
「ええ。あなたを召喚して傷付けた国を壊してしまおうと思うくらい。私は寛大じゃないわ」
私は詳しい話を聞きたいとお願いした。だって、気付いたら知らない場所にいて、手足は短くて。何が起きたのか話してもらえないまま放り出されたから。リディが知ってる範囲でいいから教えて欲しい。
「いいわ、でも先にお着替えしましょうね」
アランやエルはオスだから。リディにそう言われて、うーんと考える。ちんちくりんな幼女が脱いでも興奮しないと思うし、父兄と考えたら見られても問題ないよ。
「大問題よ。あなたは私達の大切な主君で、聖女なのだから」
よく分からないけど、リディが言うならと頷いた。白っぽい幼稚園服みたいなパジャマを脱ぐ。今度は綺麗な青のグラデーションのワンピースを着せてもらった。腰に紺色のベルトを巻いて、髪にも同じ色のリボンを結ぶ。
奥様の姿に戻ったリディはベッドに腰掛け、私を膝枕の形にした。でも上向きじゃなくて、横向き。これだと顔が見えないけど、落ち着く。肩に手を置いて、リディは話し始めた。
私を召喚した国はケイトウ。この世界は、大陸が二つある。今いる方が緑の大地、もう片方を白の大地と呼ぶ。間に青の海が広がり、白の大地の向こうには赤の海があるみたい。色はそれぞれの大陸や海の特徴を表してるのかも。
ケイトウは王政で、規模はさほど大きくない。聖女召喚を行ったのは、国を大きくしたい野望があったため。ところが苦労して呼び出したら、出てきたのが幼女の私だった。
「この部分に関しては、私達は理由に見当がついているの」
リディは、召喚の対価が足りなかったせいだと言い切った。だから縮小版の私が召喚されたのね。中途半端に、首だけで召喚されなくてよかった。
「彼らはサラちゃんの能力に気づかなかった。昔から動物に好かれるんじゃない?」
「うん」
近所の犬や猫は好意的だったし、山歩きが好きなのも鹿や猪に会えるからだ。鳥が肩に止まってくれることもある。
「聖女の資質よ」
生まれ育った世界にいる頃から、聖女になれる素質が溢れてた? その割に平凡な人生を送ってきたよね。




