決意と変化
俺の部屋に4人の美少女たちが正座なり体育座りなりで座って黙る。
黙るだけなら耐えられるのだが、早く話せと言わんばかりの視線を向けられてしまうと困ってしまう。
困るも何も話せば良いだろうというごもっともな解答は今欲していない。
「……。で? 龍二。どうしたのかな? 私たちを呼び出すなんてただ事じゃないんだよね?」
知ってか知らずか涙実が率先して声をかけてくる。
いや、涙実は元々こういう奴だったな。
ずっと、お姉さんポジションで周りを束ねたがる。
母親適正がこの4人の中で1番高い。
「あー……。うん、その、言い難いんだけど」
歯切れ悪い言葉を口にし、視線は自然と下の方へ向いてしまう。
目を逸らそうという意識なんかこれっぽっちもしていないのに、逸らしてしまうのだ。
きっと、悪いことをしているという自覚が強すぎるのだろう。
「あ。ちょっと、龍二。外来て。外」
「は? え。なんで?」
俺に拒否権は存在しない、という感じで涙実は俺を部屋から連れ出す。
「皆ちょーっと待っててね。大事な話思い出したから」
涙実は部屋に残った3人にそう伝えるとパタンと扉を閉めた。
廊下には2人っきり。
「もしかして、諦めた? 皆に伝えようとしてるよね?」
「諦めた……。まぁ、そうだな」
違うと否定しようとしたが諦めた以上にぴったりな言葉が出てこず反論することを放棄してしまう。
「え。なんで? もしかして、私の企てた作戦のどこかがおかしかった?」
焦っているようで早口になっている。
何かやらかしてしまったかもしれないと思うと焦ってしまう気持ちは痛いほどわかる。
だが、今回は涙実は何も悪くない。
むしろ、良く協力してくれたと頭を下げて、お金を渡さなければならないレベルだと思っている。
感謝してもしきれない。
「いや……。涼風だけじゃなかったんだよ」
「あー。なるほどね。花音もダメだった?」
納得したように正解を突きつける。
「うん。友情を好きと勘違いしてるのかなと思ったけど、どうも違うんだよね」
「花音って結構ラブコメものの漫画とか読んじゃってるし、案外そういう話は理解しきってるんだよ。普段はふわふわしてるのに」
「恋愛に関してもふわふわしてて欲しかったなぁ」
「ちなみに、希愛の方はどうだった?」
「希愛は憶えてないって言ってた。だから、まぁ大丈夫じゃないかな。言ったら思い出すかもしれないけど」
「ふーん。そっかそっか。なるほどね」
涙実はうんうんと頷きながら唇に手を当てる。
「私的には言わない方が良いんじゃないかなって思うんだ」
「ほぉ……。その心は?」
「言わなくても回避出来る可能性があるなら試した方が良くない? 例えば『今は彼女が欲しい気分じゃないんだよね』って軽く言ってみるとか。どうせ、龍二のこと好きなわけだし、尊重して1歩引いてくれるかもしれないよ」
「あー。でも、大事な話があるって言って集めちゃったしなぁ……。今更」
「それならさ、大事な話はバーベキューを誘おうとしたってことにしようよ。その中に『今は彼女が欲しい気分じゃない』っていう意思表示を潜り込ませれば……。どう? 完璧だと思わない?」
涙実の提案。
悪いものでは無いが、どうも俺の決意が無駄になってしまったようで不完全燃焼気味だ。
だが、回避出来るに越したことないというのは紛れもない事実なわけであり、やらない理由は特にない。
自分の過去から逃げている訳じゃなくて、避けているのだ。
自分自身にそう言い聞かせながら俺たちは部屋へと戻った。