高校生活
1年通い慣れた高校とは違う高校へ向かう。
名前だけは昔から知っていたが、あくまでも側だけであり中身なんかこれっぽっちも知らない。
制服も違和感だらけだがきっとしばらく着ていれば慣れるだろう。
しばらく歩き高校に到着する。
周りの生徒に紛れながら高校の校舎へと入り、皆教室の方へ流れていく中逆行しながら靴を手に持ち、職員室の方へと向かう。
靴を持っていることで悪目立ちしてしまい、すれ違う人達の視線が少し痛い。
職員室の戸を叩くと、1人の女性教師が顔を出してきた。
「2年A組担任の海老原です。よろしくお願いしますね」
長い髪を軽く束ねて、しっかりとスーツを着こなす大人な女性という感じだ。
何よりも、若い。
多分だが、25超えていないんじゃないだろうか。
「よろしくお願いします」
「では、教室の方へ案内しますね」
コクリと頷き、ヒヨコのように後ろを着いていく。
「あ、その前に下駄箱行きましょうか。靴持ったままってのも邪魔ですし」
足を止めた先生はそのまま下駄箱の方を指さす。
ほんの少しだけ歩き「ここがA組の下駄箱です。転入生なので1番後ろを使ってもらおうと思います」と1番後ろの何も書いていない空き状態であった下駄箱の戸を開いてくれる。
そこに靴を入れるとまた歩き出す。
教室棟に入ってすぐ足を止めた。
「ここが2年A組の教室です。教卓の前で簡単に自己紹介をしてください。そうしたら空きの席に案内しますね」
「分かりました」
返事をすると教室前方の扉をスライドした。
「えー。皆さんおはようございます。今日は転入生が1人入ってきます。じゃあ、どうぞ」
手招きされたタイミングで教室へ入る。
教室内はかなりざわつき始め、とても喋れるような空気感ではない。
先生が1度大きく手を叩き、沈黙が流れる。
ざわつきが収まった代わりに俺の方へ視線がぐいっと向けられた。
「あー……。瀬名波龍二です。瀬戸内の瀬に、名前の名、内側の内で瀬戸内で、難しい方の龍、漢数字の二で龍二です。よろしくお願いします」
頭をぺこりと下げると大きな拍手が起こる。
「それじゃあ……。そうだね、山岸さんの隣の席空いてるからそこにしましょうか」
空いている席を見ると、隣にはハイツインテールで、両方にリボンのヘアゴムが付いている女の子が不貞腐れたような目をしながらこちらを見つめていた。
制服をしっかりと着こなそうという意識なんかこれっぽっちも無いようでワイシャツの第1ボタンは外し、胸元のリボンもだらぁーんとしている。
「先生。あの人の隣ですか?」
「はぁ!? アンタなに? 私の隣じゃダメっていうの?」
もしかして、と思ったが声で断言出来る。
これ、希愛だ。
俺の記憶では髪の毛はストレートに伸ばして、結んだりもせず、最低限決められたルールはしっかりする子だった。
少しだけグレてしまったらしい。
まぁ、ピアスとか髪染めたりとかしてないだけ、根本にあるものは変わらないのだろう。
反抗期ってやつかな。
「冗談だって……。だから、そんな怒るなって」
「別に怒ってるわけじゃないわよ」
しゅんと威勢を失う希愛を横目に俺は席に座る。
ササッと連絡を終えると担任は教室から出て行った。
「まさかね、アンタと同じクラスになるなんて思ってもなかったわ。最悪」
希愛は腕を組んで、足も組んで体をこちらに向けながらブツブツ文句をぶつけてくる。
スカートを短くしているせいで足組んだら見えちゃいそう。
「悪かったな。同じクラスで。あと、パンツ見えそうだぞ」
「バカ! 死ね!」
ストレートに罵詈雑言を浴びせてくる。
ここまでストレートにぶつけられると逆に悔しくない。
転入生という珍しい対象を見つけたクラスの陽キャたちは俺の元へ近付こうとしているのだが、誰よりも先に希愛が俺と話し始めて一方的に暴言を吐いている光景を見て1歩下がっている。
「のあっちさ。コイツと知り合いなの?」
髪の毛を茶色に染めたいかにもギャルみたいな女子が希愛に話しかける。
カバンとかにジャラジャラアクセサリーとか付けてそうだ。
「知り合いっていうか幼馴染なだけよ。元々コイツこの辺に住んでたの……。って、どうでも良くない?」
「良くないっしょ! 普段男子と死んだような目しながら話すのあっちがここまで楽しそうに話してるの初めて見たしー。もしかして付き合ってるのかなー、なんて思っちゃったり?」
「無理無理。こんなのと付き合うとか死んだ方がマシだから」
「えー。顔赤くなってるけどー」
そんなやり取りを横目に取り残された俺はぽつんと何もせず席に座り、前を見る。
「やぁ。初めまして。僕は津森。しがないサッカー部員だよ。よろしくね」
主人公オーラをドバドバ流す男子が声をかけてきた。
正直あまり得意なタイプではない。
「あぁ……。よろしく」
「分からないこととかあれば遠慮なく声かけてね。助け合いだよ」
それだけ言うと津森は手をヒラヒラさせて自分の席へと戻った。
同時にチャイムが鳴り、一限目の教師が教室へと入ってきて授業がスタートしたのだった。