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4人目:花音

 希愛との電話を終えてかれこれ30分。

 充電をし始めたスマホも80パーセントぐらいまで回復していた。

 引っ越してきたばかりで部屋の整理をしなきゃなと重い腰をあげると同時にインターホンが鳴り響く。

 越してきたばかりの家に来るなんて誰だろうかと思いながら玄関を開けるとそこには花音が立っていた。


 ポニーテールをぴょこぴょこさせている。

 濃いピンクで長めのカーディガンを羽織り、カーディガンに比べると薄ピンクのスカートを履いて、腕にはピンク色のブレスレットを付けている。

 ポニーテールの付け根にはピンク色のシュシュがあり、どこを見てもピンクだ。

 だが、メンヘラ感はなく、うまーくピンクを操っている。


 「うわぁー。本当に瀬名波(せなみ)くんだ。本物? 本物だよね?」


 俺と目が合うなり、俺の肩を両手で掴む。

 動く度に揺れるポニーテールを俺はただジーッと見つめる。

 他意はない。


 「逆に俺の偽物ってなんだよ……。本物だよ。本物。だから、とりあえず離してくれ」

 「わわっ……。ごめんね。つい、興奮しちゃって」


 花音は「えへへ」と恥ずかしそうに頭を搔く。


 「あたし達って何年会ってなかったんだろうねー。なんだかすっごーく長い間会ってなかったような気がするね」

 「あー。でも、どうなんだろうな。10年経つか経たないかぐらいじゃね?」

 「えー。10年も? 長いね。本当に久しぶりじゃん!」


 花音のふわふわっとした雰囲気に飲み込まれて俺もなんだか気持ちがふわふわっとしてしまう。


 「他のみんなとは会った?」

 「会ったよ。皆元気にやってそうで何よりだ」

 「今でも遊んだり、一緒に学校行ったりするぐらいあたし達仲良いんだよー! 皆ね、モテるのに彼氏作らないから時間有り余ってるんだー。不思議だよね! 彼氏作れば良いのに」


 深い意味があるわけでもなさそうで、ただただ花音はそう口にする。

 ただ、皆が彼氏を作らない。

 それだけなのに、俺の心がギュッと締め付けられる。

 悪意のない言葉がここまで響くとは思わなかった。


 少し自意識過剰かもしれないが、「再会したら付き合おう」という俺の冗談が影響している可能性は否めない。

 例え、1ミリでも関与している可能性があると思うだけで心が痛くなる。


 「花音も彼氏作らないのか?」

 「うんっ! だって、瀬名波くんと付き合う約束したもん! 約束したのに他の男の人と付き合うのはダメかなーって。だからね、ぜーんぶ断ったんだ!」


 ここにいた。

 ここにもが正しいかもしれない。

 涼風と花音の2人が俺の言葉を真に受けてしまっている。

 確かに、似た者同士ではあるので、信じているのは不思議なことではない。

 単純にまた1つ課題が増えただけだ。


 「あー、うん。そうか。えーっと……。俺と付き合いたいか?」


 もしかしたら約束は守らなきゃという義務感の元俺と付き合うと言っているのではという可能性を追いかける。


 「うんっ! 付き合いたいよー。だって、あたし、瀬名波くんのこと好きだもん!」


 ポニーテールを激しく揺らし抱きついてこようとするのでとりあえずサッと避けておく。

 花音みたいな美少女に抱かれるのはむしろ、夢見ていたことではあるが家の間の前でやられると多分面倒なことになる。


 「具体的にどこがだ?」

 「うーん。そういえばあたしどこが好きだったんだろう。あれれ、思い出せないや」

 「あれだろ、ちっちゃい頃の思い出補正やらなんやらで好きだと勘違いしてるだけなんじゃないか? 分からないってことは好きって感情とは違うのかもよ?」

 「えー。そうかな。でも、胸ドキドキするし、顔も熱くなるからこれは好きなんだよっ! だから、大丈夫! 付き合おう?」

 「あー……。うーん。その悪い。ちょっとだけ時間貰えるか? やっぱり10年近く経つと気持ちが揺らぐんだよなぁ」


 勢いに負けそうで咄嗟に断ってしまう。

 一瞬だけの花音は寂しそうな表情を見せたがすぐに明るくてふわふわした表情へと戻った。


 「そーだね。あたしだけの気持ちじゃダメだもんね。良いよっ! 待っててあげる。待つからあたし今日はもう帰るねっ! バイバイっ!」


 花音は大きく手を振って走り去って行った。

 花音本人はバレていなと思っているようだが、バッチリと見てしまったし、耳に入ってしまった。

 鼻をすする音と、1粒の涙が落ちるのを……。


 数年前に一方的に告白して、数年後に一方的に振ったという最低な男が完成してしまった。

 自分で蒔いた種は自分で回収しなければならない。

 ここまで来たら涼風の件も俺の手でどうにかするべきなのかもしれない。

 涙実の作戦は嘘に嘘を積み重ねるだけで本質は何も変わらない。

 最終的に辻褄が合わなくなり、いずれ手に負えなくなってしまう可能性だって大いにあるだろう。

 それだったらまだ種が成長しきっていないうちに自分の手で抜いていくのが最前ではないだろうか。

 小さく覚悟を決めて俺は家へと戻った。

たくさんの閲覧ありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします!

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