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3人目:希愛

 携帯の電話番号とメールアドレスを涙実に教えた。


 「希愛と花音に電話を教えておいてあげる」


 そんなことを口にしており、実際に帰宅してしばらく経つと見知らぬ番号から電話がかかってきた。

 早かれ遅かれ会話しなきゃいけないとは思っていても、いざ電話がかかってくると俺に拒否権が生まれるわけで見て見ぬふりしたいという気持ちが芽生えてしまう。


 スマホを手に取り何コールか画面を眺め後、1つため息を吐いてスーッと画面をスライドする。


 「はい。もしもし」

 「もしもし、山岸(やまぎし)です。こちらの電話番号は龍二くんの電話番号で間違えないでしょうか」

 「希愛か。合ってるぞ。俺だ」

 「涙実のことだから適当な電話番号教えてるんじゃないかって疑ってたけど本当なのね」

 「涙実に聞かれたら泣くぞ。アイツ」

 「アンタも知ってるでしょ? 涙実がそんな簡単に泣くような女じゃないって」

 「まぁ、そりゃそうだけど」


 希愛の言う通り涙実は簡単に泣くような女じゃない。

 乙女とは程遠く、泣くぐらいなら徹底的に相手をぶちのめすタイプだ。


 「そうだ。アンタ元気にしてた? 転校してから一切アンタの話耳にしなかったから死んじゃったのかと思ったわ。それに、涼風が悲しんでたわよ。手紙でも良いから寄越しなさいよ」

 「あぁ……。うん、俺が悪かったよ。忘れてた訳じゃなくて単純に連絡するような内容が無かったんだ」


 何があったと聞かれて答えられるようなことは無い。

 本当にただただ東北で暮らす他地域の人間って感じの生活をしていた。

 転入先の学校で馴染めず、東京の人間だって色眼鏡で見られて、学校と家をひたすら往復するだけの生活。

 とてもお世辞でも楽しいものだったとは言えない。

 それでも虐められていたわけでもないので、辛いというわけでもない。


 「そう」

 「逆に希愛達はどうなんだ? 元気にしてたか?」

 「えぇ。そりゃ。4人同じ高校に行ったし。アンタよりは楽しく元気にやってたと思うわよ」

 「そりゃ良かった」


 正直4人が羨ましい。

 俺もこっちで順当に生活していれば真っ暗な思春期じゃなく、色鮮やかな思春期を過ごせたのだろうなと思ってしまう。

 今俺たちは高校2年生だ。

 ここから、多く見積っても青春を謳歌できるタイムリミットはあと2年。

 まだ、春なのが救いだ。


 俺が綺麗な青春を送るにはポッと湧き出てきた問題を解決しなければならない。


 「なぁ……。希愛ってさ、憶えてるか?」

 「何をよ。突然そんなこと言われたって分かるわけないじゃない」


 至極真っ当な返しだ。

 ベッドに飛び込み、スピーカーモードに切り替えてスマホを耳から離す。


 「あー、あの、転校する直前に約束したアレだよ。別に約束憶えてないならそれで良いんだけどさ」

 「憶えてたらどうするつもりなのよ」

 「憶えてたらその時はその時だな」

 「ふーん。憶えてた方がアンタのこと困らせられたっぽいわね。ちょっと勿体ないことした感あるかしら」

 「なんで困らせたいんだよ」

 「うーん。その方が面白いから……? とにかく、残念ながら憶えてないので、どんな約束だったか教えて? 覚えてる程でもう1回やり直すから」

 「憶えてないならわざわざ教えるわけねぇーだろ」

 「少しぐらい教えてくれたって良いじゃない」


 語気は少し強めだが「アハハ」と電話越しに笑い声が聞こえてくるので、本気で怒っているわけではなさそうだ。


 「そりゃ良かった」

 「仮に憶えてても憶えてたら都合悪いみたいな反応されたら憶えてるなんて言えないわよ。まぁ、本当に憶えてないんだけれどね」

 「都合悪いってわけじゃ……。ないこともない」


 キリッと言いきれない。

 というか、普通に忘れてもらった方が都合は良い。

 俺が1ミリも守る気ないのだから。


 「ふん。そう。とにかく、アンタが元気だって分かっただけ収穫ね。次は学校で顔合わせるわよ」

 「あぁ。女子高生になった希愛がどんなか楽しみにしてる」

 「はぁ!? バァーカ!」


 最後の最後にオブラートの欠けらも無い暴言を吐かれて電話が切れる。

 スマホをスリープモードにしながら、小さくため息を吐いた。

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