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助けを乞う

 授業が終わる。

 担任は授業が終わると何事も無かったかのように荷物をまとめたあと、サーっと教室を去る。

 本当に、誰かから逃げてるのと思わず聞きたくなるぐらい教室を抜けるのが早い。


 「希愛……」


 声をかけるが希愛はわざとらしく席を立ち、教室から出ようとする。


 「のあっち、喧嘩してんの? そんな顔してたら可愛い顔が台無しでしょー」


 江本(えもと)は、希愛の柔らかい両頬を両人差し指でつんつんと突く。

 やかましそうに、希愛は江本の腕をグンっと掴んでそのままの流れで教室から出ていく。

 洗練された動き過ぎて、思わずボーッと眺めていたが純粋に逃げられてしまった。

 やはり、怒りは収まっていないらしく、避けられてしまう。

 話しかけても逃げられて、謝罪するタイミングそのものが訪れない。

 せめて、どこかしらで2人っきりになるチャンスでもあれば良いのだが中々、2人っきりになれるタイミングそのものが訪れないのだ。

 携帯を利用すれば、2人だけの空間という条件はクリア出来はするだろう。

 しかし、携帯のメッセージで謝罪するのはどうなのかと思ってしまう。

 楽してるなと思われてしまうのは困る。


 アピールしたい訳じゃないと、言いきれる訳じゃないが、相手の顔を見て謝らないのは謝罪のうちにカウントされないだろう。

 携帯であれば、笑いながら謝罪文を打ち込むことだって可能だし、鼻くそをほじくりながら謝罪文を入力し、送信することだって大いに可能だ。


 そんな相手から視認されない状態の謝罪になんの意味もなさないと俺は考える。

 もちろん、そもそも俺が謝罪についてあれこれ考えるな、語るなと思うかもしれないが、謝罪出来ない人間だからこそ思うところだってあるのだ。


 何はともあれ、避けられているわけでチャンスを掴むことすら許されない。

 そして、こっち側には頼れる身内だって存在しない。

 涙実は既に味方にならない宣言をされており、涼風も状況を把握している以上こっち側に擦り寄るようなことはしないだろう。

 となると、俺が頼れるのは花音なわけだが、花音に任せて何かが解決するとは到底思えない。

 花音は雰囲気を良くしたりするのは得意なのだが、多分あれ全て計算せずやっているので、頼りにしたところで的はずれな結果が返ってくるのが目に見える。

 結果として、誰を頼れば良いのか分からないというような状態に陥ってしまう。

 自分一人でどうにか出来るのが一番良いのだろうが、俺にそこまでの思考力も根性も存在しない。

 せめて、希愛が顔を合わせてくれるようになるまで待つしかないのだろうか。

 俺に出来ることは時間が経つのをただじっと待つただそれだけだ。


 「……。解決したのに変な顔しているね。何かまた問題でも起きたのかい?」

 「んだよ」


 このタイミングでコイツの顔は見たくない。

 津森に邪魔だとやんわり伝えるために、ギロッと睨みつける。

 それでも、津森は怯むどころか、笑い始めてしまった。


 「まぁ、まぁ、そんな怖い顔しないでくれよ。僕はただ善意で君を助けようとしているんだよ。そうだな、ライバルとして戦っている仲なんだ。別に、ここで君が勝手に脱落してくれるのは僕的にはラッキー以外の何物でもないのだけれどね」


 津森は「へへ」と笑いながら鼻を擦る。


 「ただ、それって僕的にはすごくつまらない展開でもあるんだよね。簡単に手に入らないからこそ楽しいのであって、手が届いてしまうのならあまり面白くはないかな。だから、ライバルだけれど手を貸す……、それだけの事なんだけれどこれでまだ僕を疑うかい?」


 コイツどんだけ鈍感なんだよと、内心少し馬鹿にしていたのだが、どうやら俺の視線の意図には気付いていたらしい。

 気づいていて、尚こうやって手を差し伸べようとしてくれている。

 ただ、津森が差し伸べてきた手を掴むのはかなりリスキーだ。

 後々、何を要求されるか分からない。


 じゃあ、ここで縋らなかったらどうなるか。

 何も難しいことはなく、単純に頼る人間が周りにおらず、ひたすら時間が解決してくれるのを待つことになるだろう。

 何年後、何十年後になるかは分からない。

 もしかしたら、希愛の結婚式で新郎の前で土下座をすることになるかもしれない。

 どちらにせよ手遅れになるのであれば、勝負をするのは間違っていないだろう。


 「分かった……。その、俺を助けてくれ」


 心からの懇願。

 やっとけば良いだろうというやっつけではなく、真面目に考えて、お願いするのは人生でも片手で数えられる程度だ。


 「僕に任せればどんな問題も解決出来るさ」


 津森は胸を叩いてそう自負する。

 頼もしく見えた。

主人公の苗字を間違えていたので変更しました。

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